清掃担当者がいる、いないに関わらず、基本的に排泄や吐瀉は職員が対応する場合が多い。施設の規模や方針、その時々の現場判断にもよるが、保健衛生上の問題があるため専門知識が必要となる。
「しかし突発的な粗相なら時間はかかりますが元通りにできても、弄便が常態化しているような方の部屋では限界があります。ある施設で「綺麗にしていないじゃないか」と先輩職員が若手職員を注意しているのを咎めたことがありますが、その利用者の方はさっきお話しした、便で人形を作る方でしたからやめません。彼にとっては趣味ですからね。それでも、昔に比べれば排泄介助も含めて技術的にも改善したとは思いますが」
こうした利用者の側に立つ、そのやり方は施設や職員により様々だろうが、とても難しいことだと思う。
「人形の出来が悪いと思ったら壁に投げて壊しますし、満足すれば何体でも作ります。24時間3交代とかその方のみ、つきっきりでお世話をするなら止められるかもしれませんが、まず無理です。気に入らないことがあると暴力に訴えてきますから職員が危ない。それなりの清掃となり、臭いもとれませんが、もう仕方がないのです。本人がその臭いを好きな場合もありますし、それがお気に入りの場所なのですから」
他者および自身に対して危害を加えようとする行為が常態化している利用者もいる。強度行動障害にまで至らなくともそれに近い行動で他害を繰り返す。どうしても落ち着かない方はどうするのか。
「施設の方針にもよるのですが、医師の許可をいただいていれば投薬です。現実には落ち着かずに暴れてしまう方もいます。噛みつかれたり、引っ掻かれたり、殴られたり、とくに私が個人的に痛いのはつねりですね。若い男性入所者に全力でつねられると場所にもよりますが本当に星が飛びますよ。大人の手加減なしのつねりですからね。あとは拘束(後述)でしょうか。それ以外はとにかく我慢です。障害者虐待防止法もありますが、やはり入所者にも理由があり、そのたびに試行錯誤で対応します。認知症でも男性が暴れると思わぬ力を発揮する場合があります。ご高齢でも体力的に若い方もいますから」
介護職員が守られないのは仕方のないこと
障害者虐待防止法とは「障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律」のことで、2012年10月1日より施行された。大きなきっかけとなったのは2004年、福岡県の知的障害者更生施設「カリタスの家」における虐待の発覚である。厚生労働省は「国や地方公共団体、障害者福祉施設従事者等、使用者などに障害者虐待の防止等のための責務を課すとともに、障害者虐待を受けたと思われる障害者を発見した者に対する通報義務を課す」としている。
「私たちが守られないのは仕方のないことと個人的には覚悟していましたが、職員の中には理不尽と思っている方々も多いのは現実です。利用者は意思疎通の難しい方々ですから、私たちが何をされても守られる術はありません」