虐待行為の定義には外傷が生じる行為や身体拘束などの「身体的虐待」、暴言や心理的外傷を与える言動による「心理的虐待」、障害者にわいせつな行為をする「性的虐待」、長時間の放置などで介護を放棄する「ネグレクト」、そして障害者の金銭を勝手に使うなどの「経済的虐待」がある。障害者虐待防止法で禁止されているが、逆に職員および親族等の養護者はこれらを障害者から受けてもこの法は適用されない。一般的な民事、刑事となる。
「39条がありますから、難しいでしょうね」
39条とは下記の刑法第39条のことである。
1.心神喪失者の行為は、罰しない。
2.心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。
刑法上、責任無能力者(14歳未満および心神喪失者のこと)は原則として刑事責任を負わないとされている。
「実際、怖い思いをしたと辞める方もいます。それを責めることもできません。もちろん、職員による過剰防衛、虐待もあります」
福祉施設において虐待とされる事件は度々報告されている。直近では2022年9月6日、神奈川県立中井やまゆり園は外部調査委員会の報告書を受け、以下の虐待および不適切な支援について公表した。
〈報告書では、「虐待が疑われる」として25件、「不適切な支援等であり、支援方法を見直すべき事案」として12件の事案が明らかになりました。中井やまゆり園の利用者の皆さん、ご家族の皆さんはもとより、多くの皆さんにお詫び申し上げます。
また、「人権意識の大きな欠如が生じている」「虐待に対する知識及び意識共に欠如している」など、大変厳しい指摘もあり、重く受け止めております〉
その報告書には25件の虐待の疑いなどが記されている。抜粋すると「居室の天井が便まみれとなっている環境で生活をさせた事案」「利用者の顔を平手打ちし、こぶしで額を殴ったとされる事案」「服を着たままシャワーをかけたとされる事案」「利用者の肛門内にナットが入っていた事案」「水やみそ汁を多量に飲ませていたとされる事案」などを挙げているが、これについて、どう思うか。
「虐待はあってはならない。これは最初にも言いましたが大前提です。当たり前の話です。お互い人間なのですから。私の尊敬する職員の方々も、何をされても受け流して、ときには毅然と職務を全うしていました。どんなに利用者から理不尽な目に遭っても『かわいいところもある』『ほんとうはすてきなひと』と触れ合える職員もいます。心が通じたときの喜びは何物にも代え難い、私もそれが励みでした。しかし誰しもそれができるとは限りません。むしろ私がお話しした現実(弄便や他害など)を前に、それができないほうが普通だと思います。私も新人に対しては『できないほうが当たり前』と考え、教えてきたつもりです。小さな言葉の暴力や強引な指示など、してはいけませんが、せざるをえないこともあります」
彼は踏み込んだ話もしてくれた。
「先ほど性的虐待を挙げられましたが、逆に入所者による女性職員に対する性的虐待やセクハラもあります。彼らも人間ですから、性的な欲求はあります。むしろ自制の働きづらい分、直情的に行動します。それで辞めてしまう女性職員もいます。他害だけでなく、自慰行為も血が出るまでする方もいましたし、先ほどの(中井やまゆり)園の話ではないですが、肛門にいろんな物を入れてしまう方もいました。もちろん、そのケースがそうだと指しているのではなく、私の場合という話ですが」