国際情報

【対談】佐藤優×片山杜秀 ウクライナ侵攻で露呈した「西側=国際社会」の限界

元外務省主任分析官の佐藤優氏はいまの日本をどう見るか

元外務省主任分析官の佐藤優氏はいまの日本をどう見るか

 共著『平成史』で「平成という時代の病」を論じたのが、作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏と慶應大学法学部教授の片山杜秀氏である。「ウクライナ侵攻」を論じる日本のコメンテーターから、令和ニッポンに潜む「みえざる危機」を読む。【全4回の第3回。第1回から読む】

 * * *
佐藤:いまの日本には2種類の平和ボケが蔓延している。ひとつは憲法9条があるから、大丈夫という平和ボケ。もうひとつが血なまぐさい戦場の現実も知らずに、核武装などについて勇ましく語る政治家やコメンテーターの平和ボケ。

片山:対極に位置するように見えますが、戦後平和主義がもたらしたという点では根っこは同じかもしれませんね。ウクライナに支援した防弾チョッキにしても武器じゃないから送ってもいいという理屈でした。

佐藤:私はむちゃくちゃな解釈だと思いました。防弾チョッキは殺傷能力がないと言いますが、戦場での使われ方次第なんですよ。仮にどんな銃弾でも跳ね返せる防弾チョッキを装備した兵士が自動小銃を持てば、攻撃性は極めて高まります。

片山:岸田政権は、国際社会と足並みを揃えて防弾チョッキを支援したと話したでしょう。ソ連崩壊後から“国際社会”は、便利な言葉として使われてきました。しかし世界情勢のバランスが崩れたいま、国際社会とはなんなのか、という疑問が出てくる。

佐藤:イタリアのベルルスコーニ元首相は、ウクライナ侵攻を受け「ロシアは西側から孤立したが、西側は残りの世界から孤立した」と語りました。西側イコール国際社会ではないという指摘は本質を捉えている。

片山:中国、インド、アフリカ……。あれだけの人口を抱える国々を含まない国際社会に意味はあるのか、という話ですね。

佐藤:しかも、現実には日本は“国際社会”と協調しているとは必ずしも言えません。G7のなかで、日本だけがロシア機の飛行を制限していない。それにロシアの意向はともあれ、日本はサハリン1、2からは自主的に撤退していない。

片山:なるほど。建前では、国際社会と協調するけど、現実はそうでもないと。ウクライナ侵攻後のロシアとの関係に備えて、保険をかけるという意味で悪い話ではない気がしますが。

佐藤:見方を変えれば、岸田政権の機能不全がリスクを分散させたとも言えます。岸田総理の側近、経産省、国交省の間で対ロシアにおける調整が行なわれていないだけという可能性があります。

片山:戦前、戦中を想起させる状況ですね。当時も総理大臣の権限が弱かったから、内閣、議会、陸軍、海軍などが各々勝手に動いて統制がとれずに最後はバラバラに崩壊した。岸田政権にも、弱腰で何を目指しているのか分からないという批判があります。

関連記事

トピックス

大谷と真美子夫人の出勤ルーティンとは
《真美子さんとの出勤ルーティン》大谷翔平が「10万円前後のセレブ向けベビーカー」を押して球場入りする理由【愛娘とともにリラックス】
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる(秋田県上小阿仁村の住居で発見されたクマのおぞましい足跡「全自動さじなげ委員会」提供/PIXTA)
「飼い犬もズタズタに」「車に爪あとがベタベタと…」空腹グマがまたも殺人、遺体から浮かび上がった“激しい殺意”と数日前の“事故の前兆”《岩手県・クマ被害》
NEWSポストセブン
「秋の園遊会」でペールブルーを選ばれた皇后雅子さま(2025年10月28日、撮影/JMPA)
《洋装スタイルで魅せた》皇后雅子さま、秋の園遊会でペールブルーのセットアップをお召しに 寒色でもくすみカラーで秋らしさを感じさせるコーデ
NEWSポストセブン
チャリティーバザーを訪問された秋篠宮家・次女の佳子さま(2025年10月28日、撮影/JMPA)
《4年会えていない姉への思いも?》佳子さま、8年前に小室眞子さんが着用した“お下がり”ワンピで登場 民族衣装のようなデザインにパールをプラスしてエレガントに
NEWSポストセブン
11歳年上の交際相手に殺害されたとされるチャンタール・バダルさん(21)。千葉のビジネス専門学校へ入学しようと考えていたという
「『彼女がめっちゃ泣いていた』と相談を…」“背が低くておとなしい”浅香真美容疑者(32)と“ハンサムな弟”バダルさん(21)の「破局トラブル」とは《刺されたネパール人の兄が証言》
約2時間30分のインタビューで語り尽くした西岡さん
フジテレビ倍率2500倍、マンション購入6.2億円…異色の経歴を持つ元アナ西岡孝洋が明かす「フジテレビの看板を下ろしたかった」本当のワケ
NEWSポストセブン
11歳年上の交際相手に殺害されたとされるチャンタール・バダルさん(21)。アルバイトをしながら日本語を学んでいた
「ホテルで胸を…」11歳年上の交際相手女性・浅香真美容疑者(32)に殺害されたバダルさん(21)の“魅力的な素顔”を兄が告白【千葉・ネパール人殺害】
佳子さまの“着帽なし”の装いが物議を醸している(写真/共同通信社)
「マナーとして大丈夫なのか」と心配の声も…佳子さま“脱帽ファッション”に込められた「姉の眞子さんから受け継ぐ」日本の伝統文化への思い
週刊ポスト
医師がおすすめ!ウイルスなどの感染症対策に大切なこととは…?(写真はイメージです)
感染予防の新常識は「のどを制するものが冬を制する」 風邪の季節に注意すべき“のど乾燥スパイラル”とは?
NEWSポストセブン
「秋の園遊会」に出席された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年10月28日、撮影/JMPA)
《秋の園遊会》 赤色&花の飾りで“仲良し”コーデ 愛子さまは上品なきれいめスタイル、佳子さまはガーリーなデザイン
NEWSポストセブン
真美子さんが“奥様会”の写真に登場するたびに話題に(Instagram /時事通信フォト)
《ピチピチTシャツをデニムジャケットで覆って》大谷翔平の妻・真美子さん「奥様会」での活動を支える“元モデル先輩ママ” 横並びで笑顔を見せて
NEWSポストセブン
クマによる被害が相次いでいる(左・イメージマート)
《男女4人死傷の“秋田殺人グマ”》被害者には「顔に大きく爪で抉られた痕跡」、「クラクションを鳴らしたら軽トラに突進」目撃者男性を襲った恐怖の一幕
NEWSポストセブン