――あの頃に渡辺謙さんとお仕事していたプロデューサーの方々にお話をうかがうと、体調への不安があるから映画会社やテレビ局の上層部が大きな仕事を任せようとしなかったということです。体調面は気になりませんでしたか?
奈良橋:私自身はすごく注意をしていました。だけど、謙さんのあのスピリットを見ていると「もう、絶対に大丈夫だ」信じることができました。それでも体調管理は気をつけましたね。監督に「ちょっと、今日はやめたほうがいいんじゃないですか」とか言うこともありましたから。
――そのケアをちゃんとできれば、あれだけの仕事ができるわけですよね。
奈良橋:ですから思うんですけど、日本って「これがこうなっちゃったら駄目」っていうのが先に来るんですよ。なぜ「リスクを背負ってでも前に行こう」とならないのか。私は後者のほうなので、「賭けようよ。だって、人生一回だからLet’go」みたいに思うことはすごくあります。
【プロフィール】
奈良橋陽子(ならはし・ようこ)/ニューヨークのネイバーフッド・プレイハウスで学ぶ。演出した舞台・映画『THE WINDS OF GOD』(1995)は「国連芸術賞」「日本映画批評家大賞」受賞。現在はキャスティング・ディレクターとしても活躍しており、映画『ラスト サムライ』『SAYURI』『バベル』『終戦のエンペラー』など話題作を次々と手がけている。
【聞き手・文】
春日太一(かすが・たいち)/1977年生まれ、東京都出身。映画史・時代劇研究家。
※週刊ポスト2022年10月21日号