女性セブンの人気月イチ連載漫画『トラとミケ』の単行本4巻が発売になった。トラとミケが営む“どて煮屋”に集うお客の人生模様を描いた本作の魅力について、料理コラムニストの山本ゆりさんが綴る。
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また友達に全力でオススメしてしまう漫画を知ってしまった……。むしろ今までなぜ知らなかったのだろう。今回4巻を読ませて頂き、貪るように1~3巻を読み、まさに「トラとミケ」のお店から出てきたような、ジワッと温かくホクホクした気持ちが続いている。甘い名古屋のおみその匂いも髪についていると思う。
本誌の読者の方にすれば何を今さらだと思うが、予備知識ゼロで開いた瞬間イラストに衝撃を受けた。表紙の雰囲気、猫が主役ということから、ゆるくてほんわかした、あまり線のない絵の想像をしていたのだ。全然違いました。風景、小物、生き物の1つ1つがなんて丁寧で精巧で美しく、それなのになんて可愛くて味のある絵なのだろう。季節の移り変わり、天気や時間帯、気温や空気の匂いまで伝わる光と影の色使いが映画を観ているようである。雨上がりのマンホールに群がるスズメ、川沿いの住宅街にある狭い公園、花火に照らされる店前の3人、古い銭湯にあるやたらうるさいマッサージチェアや乗るとガシャンと重りが動く音がする体重計……絵を見ただけでこの漫画を買って良かったと思えるほど、ノスタルジーでたまらなく愛しい。……アカン絵が好きすぎて絵の話だけで終わってしまうから自粛するわ。でも最後に1個だけ言わせて……金木犀にやどる野鳥めっちゃ好き。
本書はところどころに食べ物が登場する。「トラとミケ」の看板商品どて煮、串カツ、三吉の助六、メグミのお弁当(野菜の多さや色合い、詰め方で奥さんの性格がわかる気がする)、新じゃがの煮っころがし、冷ややっこ(薬味の多さが嬉しい)、きしめんと天むす、お風呂上がりのコーヒー牛乳(最高)、〆サバ、ひなあられに桜餅……季節や心情にピタリと合うご飯が本当においしそうで、湯気や香りがここまで届きそうだ。
さて4巻は同級生のお葬式から始まる。昔の仲間が集まり、その中のひとり、中村君が癌で先が長くないことがわかる。いつも明るく爽やかでみんなの相談役。パーフェクトな人間に見えるけれど、裏では人知れず涙を流し、死に怯える姿があった。そんな彼が故郷に戻って仲間たちと過ごし、学校でいじめに遭うリコちゃんの相談に乗るうちに、少しずつ変わっていく。