国際情報

【フォトレポート】「銃撃死」「スパイ」「オホーツクの帝王」「臨検」──ロシア国境警備隊vs北海道・根室漁船の「血塗られた歴史」

85年にもわたって風雨にさらされ、老朽化が激しい貝殻島灯台。この周辺ではロシア当局による臨検が激しさを増している。2004年の「ビザなし交流」のチャーター船から撮影

85年にもわたって風雨にさらされ、老朽化が激しい貝殻島灯台。この周辺ではロシア当局による臨検が激しさを増している。2004年の「ビザなし交流」のチャーター船から撮影

 ロシアのウクライナ侵攻では、プーチン政権による一方的な併合が宣言され“国境線の書き換え”が現実のものとなった。それはロシアと国境を接する国々にとっては「対岸の火事」ではない。ロシア(ソ連)との領土争いが続く北方領土周辺の海域では、戦後80年近く「国境を巡る悲劇」が起き続けている。1990年に日本人ジャーナリストとして北方領土・択捉島に初めて上陸して以来、「日本の国境」を撮り続けてきた報道写真家・山本皓一氏がレポートする。

 *  * *

「本土最東端」の碑が立つ北海道根室市の納沙布岬。その約3.7キロ先に、ロシアが実効支配する歯舞群島の「貝殻島」がある。この島は「低潮高地」と呼ばれ、干潮時のみ陸地が出現する無人島だ。1937年に日本が貝殻島に建てた灯台は今にも倒れそうなほど老朽化しているが、納沙布岬から肉眼でもはっきり確認できる。

 納沙布岬と貝殻島の海峡には「中間線」という名の境界線が引かれている。いくつもの赤いブイ(浮き)がそのラインを示す目印となっているが、それが現在の日本とロシアの“実質的な国境線”である。

 北方領土周辺の海域はウニ、タラ、カニ、コンブなどが獲れる世界有数の漁場として知られる。だが、終戦直後に日ソ中立条約を一方的に破棄したソ連による北方領土侵攻で、根室の漁師たちは生活の糧としていた広大な漁場を失った。

 戦後からある時期まで、根室の漁師たちはしばしば「中間線」を突破して旧ソ連の支配海域に突入。その結果、漁船が拿捕される事件が頻発した。1956年10月15日には、根室のサメ刺し漁船「孝栄丸」が水晶島(納沙布岬から約7キロの距離にあり、ロシア国境警備隊の施設がある)近海で銃撃され、船長が死亡する事件が発生している。

「(中間線から)日本側の海だけでは仕事にならない。何とか安全に北方領土海域で操業ができないものか」──そうした地元の漁業関係者が編み出した“抜け道”が「レポ船」と呼ばれる秘密漁船だった。

 旧ソ連に日本の物資や西側諸国の情報を提供する見返りに、ソ連側は「違法操業」を黙認する。また、レポ船の中にはソ連に情報を提供するだけでなく、逆にソ連の情報を日本の公安当局に提供して脱税を見逃してもらう「ダブルクロス」(二重スパイ)もあった。

 冷戦時代を象徴する存在だった「レポ船」が横行したことで周辺海域での取り締まりは形骸化し、根室の漁場は潤った。「北海の大統領」「オホーツクの帝王」などと呼ばれた、数人のレポ船元締めたちが日本最東端の街で幅を利かせたのは1970年代から80年代にかけてのことである。

関連記事

トピックス

田村瑠奈被告
【戦慄の寝室】瑠奈被告(30)は「目玉入りのガラス瓶、見て!」と母の寝床近くに置き…「頭部からくり抜かれた眼球」浩子被告は耐えられず ススキノ事件初公判
NEWSポストセブン
5月27日に膵癌のため76才で死去した今くるよさん(写真は2007年)
《追悼・今くるよさん逝去》弟弟子の島田洋七が明かした意外な素顔「マンションの壁をぶち抜き」「特注のステージ衣装を“姉妹”で150着」
NEWSポストセブン
ギリシャ訪問を無事終えられた佳子さま(時事通信フォト)
佳子さま、ギリシャ訪問時のファッション報道がフィーバー「北風と太陽」注目されるプリンセスの動向
NEWSポストセブン
日本中を震撼させた事件の初公判が行われた
【絶望の浴室】瑠奈被告(30)が「おじさんの頭持って帰ってきた」…頭部を見た母は「この世の地獄がここにある」 ススキノ事件初公判
NEWSポストセブン
2014年サッカーW杯ブラジル大会開幕戦の主審・副審は日本人審判団が務めた。中央右から相楽亨副審、西村雄一主審、(1人置いて)名木利幸副審(時事通信フォト)
日本人として初めて「サッカーW杯開幕戦の主審」を務めた西村雄一氏が語るプロ審判員の矜持「選手の夢を支えたい」「満足した試合は一度もない」
NEWSポストセブン
容疑者
《ススキノ・ホテル殺人》初公判で判明した「瑠奈ファースト」な一家の歪み「母親が書いた奴隷誓約書」「父親はドライバーさん」
NEWSポストセブン
愛子さま
愛子さま、近い立場で他愛のない話をできるのは佳子さまだけ 「どこのコスメを使われているのですか?」と真剣に相談も
女性セブン
小学館が公表した「調査報告書」より抜粋
ドラマ『セクシー田中さん』脚本家の交代要請は妥当だったのか 小学館調査報告書のポイント
NEWSポストセブン
黒柳徹子のミュージアムができる
【人生の集大成】黒柳徹子の“ミュージアム”が軽井沢に建設中 計画をリードするのは“ビーズ界のカリスマ”
女性セブン
世界で活躍する真田
【全文公開】真田広之がサシ飲みでエール 俳優転身の次男・手塚日南人が明かす“知られざる離婚後の家族関係”
女性セブン
手指のこわばりなど体調不安を抱えられている(5月、奈良県奈良市
美智子さま「皇位継承問題に口出し」報道の波紋 女性皇族を巡る議論に水を差す結果に雅子さまは静かにお怒りか
女性セブン
高橋一生&飯豊まりえ
福山雅治&吹石一恵、向井理&国仲涼子、高橋一生&飯豊まりえ…「共演夫婦」の公私にわたる絶妙なパワーバランス
女性セブン