芸能

高田文夫氏が語る“初恋の人” 強面な喜劇人・八波むと志と一寸不良な兄貴分・荒木一郎

八波むと志と荒木一郎を振り返る(イラスト/佐野文二郎)

八波むと志と荒木一郎を振り返る(イラスト/佐野文二郎)

 放送作家、タレント、演芸評論家、そして立川流の「立川藤志楼」として高座にもあがる高田文夫氏が『週刊ポスト』で連載するエッセイ「笑刊ポスト」。今回は、八波むと志と荒木一郎についてつづる。

 * * *
 このところ次々と初恋の人に(初恋が次々ではおかしいか)サプライズで会っているようだ。60年前、50年前のときめきの人が本となって私の前に現われてくる。

 こんなにズーッと「笑い」に携わってきて、一番最初に私をときめかせてくれた喜劇人。小学生だった私のハートをキャッチしたのは、コメディアンとも思えぬ強面の八波むと志だ。本当に大ー好きだった。NHKの健全な『お笑い三人組』に対抗して出てきたどうみても怪しい3人組「脱線トリオ」(由利徹、南利明、八波むと志)。ムーランルージュを経由してテレビに出てきた由利はわい雑、下品、達者だった。柔な二枚目南利明。それを的確につっこんで行く八波が壮快で痛快。小気味よすぎる。後に私は萩本欽一、ビートたけしという最強の東京つっこみに出会うことになるのだが、瞬間最大風速から言って八波が勝つのではないか。

 その後、三木のり平に認められ「雲の上団五郎一座」で伝説の『玄冶店』をふたりで演じることとなる。まさに東京喜劇の金字塔。中学生の私にとってスーパーヒーローは石原裕次郎でも力道山でもなく8×8の八波むと志だった。ミュージカル『マイ・フェア・レディ』に大抜てき。さあいよいよ八波の時代と誰しもがそう思っていた。

 8×8の64年。1964年(昭和39年)37歳。交通事故死。私はただの15歳。ただただ泣くだけだった。おふくろは「学校休んでいいよ」と言ってくれた。私は学校に理由も告げず3日休んだ。

「ミュージカルとかやるから勉強もできなきゃ」と、30歳を過ぎて日大芸術学部に編入した。後年、私は未亡人と対談する機会を得た。「事故って日大病院に運び込まれたでしょ。あの時の入院費って学割だったの。粋なもんでしょ。高田さんに会って欲しかったわ」と言った。今でも八波むと志を思うと胸がツーンとする。本は『八波むと志と東京喜劇』(森田嘉彦・朝日新聞出版)。

 我々団塊世代にとっては一寸不良な兄貴分。酒、女に酔い、ハイミナールでラリッてドラマの現場へ。あぶなっかしくてシャイでいいところの子。俳優であり歌手。あの時代のにおいがまた戻ってきた。荒木一郎。『今夜は踊ろう』『いとしのマックス』。シンガーソングライターの嚆矢となると書いてある。「嚆矢」とははじまり。起こり。映画『893愚連隊』『日本春歌考』。この度出た本は『空に星があるように 小説荒木一郎』(小学館)。ノーコンプライアンス荒木。

※週刊ポスト2022年11月18・25日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

安福久美子容疑者(69)の学生時代
《被害者夫と容疑者の同級生を取材》「色恋なんてする雰囲気じゃ…」“名古屋・26年前の主婦殺人事件”の既婚者子持ち・安福久美子容疑者の不可解な動機とは
NEWSポストセブン
ブラジルにある大学の法学部に通うアナ・パウラ・ヴェローゾ・フェルナンデス(Xより)
《ブラジルが震撼した女子大生シリアルキラー》サンドイッチ、コーヒー、ケーキ、煮込み料理、ミルクシェーク…5か月で4人を毒殺した狡猾な手口、殺人依頼の隠語は“卒業論文”
NEWSポストセブン
9月6日に成年式を迎え、成年皇族としての公務を本格的に開始した秋篠宮家の長男・悠仁さま(時事通信フォト)
スマッシュ「球速200キロ超え」も!? 悠仁さまと同じバドミントンサークルの学生が「球が速くなっていて驚いた」と証言
週刊ポスト
ソウル五輪・シンクロナイズドスイミング(現アーティスティックスイミング=AS)銅メダリストの小谷実可子
《顔出し解禁の愛娘は人気ドラマ出演女優》59歳の小谷実可子が見せた白水着の筋肉美、「生涯現役」の元メダリストが描く親子の夢
NEWSポストセブン
ドラマ『金田一少年の事件簿』などで活躍した古尾谷雅人さん(享年45)
「なんでアイドルと共演しなきゃいけないんだ」『金田一少年の事件簿』で存在感の俳優・古尾谷雅人さん、役者の長男が明かした亡き父の素顔「酔うと荒れるように…」
NEWSポストセブン
マイキー・マディソン(26)(時事通信フォト)
「スタイリストはクビにならないの?」米女優マイキー・マディソン(26)の“ほぼ裸ドレス”が物議…背景に“ボディ・ポジティブ”な考え方
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる
《かつてのクマとはまったく違う…》「アーバン熊」は肉食に進化した“新世代の熊”、「狩りが苦手で主食は木の実や樹木」な熊を変えた「熊撃ち禁止令」とは
NEWSポストセブン
アルジェリア人のダビア・ベンキレッド被告(TikTokより)
「少女の顔を無理やり股に引き寄せて…」「遺体は旅行用トランクで運び出した」12歳少女を殺害したアルジェリア人女性(27)が終身刑、3年間の事件に涙の決着【仏・女性犯罪者で初の判決】
NEWSポストセブン
ガールズメッセ2025」に出席された佳子さま(時事通信フォト)
佳子さまの「清楚すぎる水玉ワンピース」から見える“紀子さまとの絆”  ロングワンピースもVネックの半袖タイプもドット柄で「よく似合う」の声続々
週刊ポスト
永野芽郁の近影が目撃された(2025年10月)
《プラダのデニムパンツでお揃いコーデ》「男性のほうがウマが合う」永野芽郁が和風パスタ店でじゃれあった“イケメン元マネージャー”と深い信頼関係を築いたワケ
NEWSポストセブン
園遊会に出席された愛子さまと佳子さま(時事通信フォト/JMPA)
「ルール違反では?」と危惧する声も…愛子さまと佳子さまの“赤色セットアップ”が物議、皇室ジャーナリストが語る“お召し物の色ルール”実情
NEWSポストセブン
9月に開催した“全英バスツアー”の舞台裏を公開(インスタグラムより)
「車内で謎の上下運動」「大きく舌を出してストローを」“タダで行為できます”金髪美女インフルエンサーが公開した映像に意味深シーン
NEWSポストセブン