「新しい法律の影響だと思うんですけど、契約してから時間を置いて撮影せねばならず、撮影後もすぐは発売できず、だからギャラをすぐもらえない。一部、個人的に前借りさせてくれる人もいましたけど、メーカーも制作スタッフも”ごめんね”って感じで。はっきり言って、ほとんどの子がお金目的ですよ。表に出てもすぐお金にならないから、裏にいっちゃいますよ」(Xのビデオに出演した女性)
「表」の映像作品を数百本撮影してきたというフリー監督・中野克行さん(仮名・40代)は、この女性の証言を裏付けるようなことが業界内で相次いでいると漏らす。
「表に出ていた有名女優でも、手軽さを魅力に感じたのか、裏に出始めたんです。どこの誰なのか誰にも明かさないため契約書にサインしたくない女の子たち、撮影後にとっぱらいでギャラをもらえないと困る女の子たちが、安易な気持ちでより危険な方に行ってしまっている。これは新法が成立する前から指摘されていましたが、やはりその通りになったなとしか思えません」(フリー監督・中野克之さん)
法律が実態に沿っておらず、懸念されていた通りに
2011年に前出のIPPAが結成され、2017年にAV人権倫理機構が設立されて以降、これらの団体が認定する事務所に所属しないと商用作品に出演できなくなった。そして2022年6月23日に施行されたAV新法は商用だけでなく同人にも適用されるようになった。これにより契約から1ヶ月間の撮影が禁止され、すべての撮影終了から4ヶ月間の公表が禁止となったため、すぐに「成果」が欲しい人たちには都合が悪い。出演者の権利を守るために新法で定められた義務なのに、スピーディな成果を求める人たちが集まりやすい業界としては、遵守しづらい。
この新法については、現役女優へのヒアリングがないまま検討は3か月、審議はわずか1日と拙速にすぎるとの批判が当初からあり、有名女優などからも「懸念」の声が多数上がっていた。そして、結局は、現実にそぐわぬ規制のために、悪質な制作者のもとへ出演希望女性がみずから集まってしまったのではないか、というのが業界関係者の見立てだ。
「女性をあらゆる形で騙して撮影する、ひどい制作者がいるのは事実です。しかし、法律が全く実態に沿っておらず、懸念されていた通りになった。結局は臭いものに蓋という感じで、無理やり押しつけるからこうなっている。こうした映像は、無断で他のサイトに転載されるなどして、一度ばら撒かれると回収はできない。事情を知っても”そっち”を選ぶ子が後を立たず、この先本当にどうなってしまうのか…」(前出の中野さん)
新たな法律で取り締まることにより女性の被害を未然に防ぐ、と言われればそれは正論なのかもしれない。だが、業界全体が「被害の温床」ととらえて、これまで自主規制を守ってきた事業者まで追い詰めるようなルールが課せられては、非合法の活動をあえて選ぶ逆効果になってしまうのではないかと指摘されてきた。いま、あえて法を遵守しない作品への出演を選ぶ女性たちの存在は、その懸念が現実になってしまったからともいえるだろう。
そういった女性たちについて、わざわざ非合法なものに「好きで出演しているのだから」ととらえて、放置するという態度には違和感がある。さらに、目先の利益を優先してしまうことを、浅はかだとか、短絡的すぎるなどと女性個人の問題にしてしまうことにも、やはり対策にはほど遠いのではないかと疑念を抱かざるを得ない。
ごく一部の人々を除けば、自ら進んでこうした映像作品に出演する人たちには、結局は恵まれない環境に置かれていたり、やむを得ない理由がある場合がほとんどだ。貧すれば鈍するではないが、時間も金もあり、相談できる家族や友人が身近にいないと、何等かの理由で追い込まれた個人の判断力は確実に鈍る。そんな状況に置かれた人々を救済する手段の拡充こそが、おそらく唯一の解決策であろう。だが、そうした建設的な議論よりも、一方的な封じ込めが優先されたことで、このような現状を呼び込んだようにも見える。やはりこの新法は、様々な権利を侵害する非適正作品を取り締まるという、本来の目的を達成するには不備があるのではないかと言わざるを得ない。
こうして今も新たな被害者を生み出し続け、被害は拡大し続けている。極めて難しい問題ではあるが、新法の中身を実態に沿ったものに改良していくなどの措置は必須だろう。そうでないと、女性を助けるための新法が、被害を地下に潜らせてしまい、より救済し難い女性を生み出し続けることにもなりかねない。