2022年12月29日朝からTwitterにログインしづらい状況が発生。大規模な従業員削減後で最大級のトラブルとなった。画像はアメリカ版Twitterのログインエラー画面(AFP=時)
「あとは政治的な発言をする有名人や炎上しやすいインフルエンサーに多いのですが、フォロワーがファンではなく『監視』目的や『銃口』目的でフォローしている場合もあります。彼らはあまり『いいね』やリツイートはしないので、逆にフォロワー数やインプレッション数が多くてもエンゲージメント率が少なかったり低かったりの場合があります。そのアカウントがなにかやらかしたら一気にリツイートで拡散の上、リプ欄(コメント欄のようなもの、リプライ)に群がる、といった感じです」
ここで言う「銃口」とは彼の言う通り「なにかやらかしたら」攻撃するためにフォローしているユーザーである。直接リプ(コメント)をぶつけなくとも引リツ(引用リツイート、相手のツイートを自分のコメント付きで引用して広める)で拡散する場合もある。もちろんファンではない上に「なにかやらかした」と思ってのことなので悪意、もしくは正義のつもりで引リツするわけだが、これも今回のインプレッション数の表示によって色々見えてくるものがある、ということか。
「当たり前の話ですが、結局のところイーロン・マスクとしては広告収入を増やしたいわけです。だから本当に人気のあるユーザーや支持されているユーザーはもちろん、フォロワーが少なくても、ときに何万もインプレッション数を記録する一般ユーザーや、扱うジャンルや名乗っている仕事、立場がニッチでもフォロワーの質が高いユーザーを可視化したいということだと思います」
悪いことばかりでなく、インプレッション数が可視化されたことにより「本当に影響力のある」ユーザーや「実は影響力のあった」ユーザーもまた可視化されたということか。フォロワー数もエンゲージメント率もインプレッション数も極めて高い「本物の数字」を持つ有名人やインフルエンサーはもちろん、自分の「好き」や、人のためになる「情報」を真摯につぶやき続けてきたユーザーにとってはありがたい話だろう。
「でもね、普通のユーザーはインプレッション数なんて気にしなくていいと思います。多かったら『多くの人に読まれた、よかった』って思う程度でいいでしょう。『View Count』はTwitterアナリティクス(分析ツール)を公開しただけですからね。多いことは悪いことではないですが、絶対ではないです。仮に気にするならバランスが大事です。承認欲求こじらせたらロクなことになりません」
これまでも言われてきた「フォロワーの数だけでなく質も大事」がより顕著になるということか。
「ビジネスならそうでしょうね。もっとも一般ユーザーの中にはTwitterのグロースハックだ、マネタイズだのコンサル連中やそのアカウントを嫌う人は多いです。古参ネット民なら「俺たちの楽しい趣味の場に金儲け目当ての意識高い系は来るな」でしょうか。」
誰もが自由な共有の場、とされるネット社会。誹謗中傷など功罪あるが、そうしたユーザーの素朴な感情のおかげでネットの面白さが保たれ、日本独特のネット文化が築かれたこともまた事実だろう。
「だから気にしなくていいし、インプレッション数が少ないからって恥ずかしがることないと思います。これまでインフルエンサー気取りだったのに『色々バレた』ユーザーが恥ずかしかったり活動しづらくなったりするだけで、多くのユーザーにとっては、そういう連中が少しでもいなくなることは歓迎すべきことだと思いますよ。それに『たかがTwitter』ですよ。ヘビーユーザーが思うほどには、界隈の話なんてリアルと通じてないものです」
しかし今後、一般ユーザーとして気をつけるべき点もあると話す。
「Twitterは潰れてもおかしくなかったほどに収益化できていません。Twitterが存続するために、一般ユーザーの気に入らないことや金銭的負担が今後あるかもしれないことは、ユーザーを続けるなら覚悟するべきでしょうね。」
富豪のマスク氏だが、道楽で赤字を垂れ流し続けることはないと本人が言及している。マスク氏によればTwitter社は1日あたり400万ドル(約5億6000万円)という途方もない赤字を垂れ流してきた。改革は始まったばかりで改善するかはいまだ不透明だ。他人のツイートのインプレッション数を表示するという突然の仕様変更、この先は一般ユーザーにも影響のあるような大幅な仕様変更がいつあるとも限らない。マスク氏はCEOを退任すると言っているが絶対的な所有者であることには変わりがない。Twitterは彼のお金で買った、彼の物だ。
多くのユーザーにとって、インプレッション数の突然の可視化という今回の件に限れば高みの見物で気にする必要ないと思うが、Twitterの今後の利用に関してこれまで通りに使い続けられるかはもちろん、「イーロン・マスク」という一個人が所有する「海外の営利企業」で「いつ何があるかわからない」という当たり前を「消費者」としてよりいっそう踏まえて、利用するべきなのかもしれない。
【プロフィール】
日野百草(ひの・ひゃくそう)日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経てフリーランス。社会問題、社会倫理のルポルタージュを手掛ける。
