武術愛が話題、大河では織田信長も演じた、岡田准一(C)NHK
岡田准一 新品の木刀を一振りで叩き折る
『明鏡止水』の第1回「香取神道流」の回(レギュラー版でも放送)で、岡田准一が木刀を一振りすると、その木刀が叩き折られたシーンは強烈なインパクトがあった。「木刀ぐらいなら簡単に折れる」という岡田に達人たちも口を開けて驚いていた。その折れた木刀は、実は森脇の私物だ。
「ほぼ新品でした(笑)。赤樫のものを使っていたんですけど、白樫のほうが頑丈だと聞いて買ったんですけど、それを見事に折ってしまわれた。気を遣って申し訳なさそうな顔をされたんですけど、僕は嬉しかったですね。もう家宝ですよ。
一般的に武道をやっているからといって、折れるというレベルではないんです。これを打ち合って稽古するのが当たり前なので、いちいち折れていたら稽古にならないですから。腕力や筋力ではない、重力を味方につけた脱力した体の使い方ですね」
「全くわからない人を気持ちいいくらい置いてけぼりにするような番組があってもいい」
岡田准一とともにMCを務めるケンドーコバヤシも重要な存在だ。熱弁して止まらなくなる岡田にツッコんで制して笑いを取ったり、ありえない状況を驚きつつ、なにかに例えながらわかりやすく伝えている。
「ケンコバさんが、敬意を込めてイジってくださっていることで、テレビ番組ではなかなか味わうことのない空気ができていると思いますね。視聴者の方も道場を覗き見ているような位置づけで楽しんでくださっているのかなと。
国際放送で武道を扱う場合、海外の方は逆におふざけが大嫌いなんです。でも国内でそれをやっちゃうと本当にコアなマニアしか見てくれない。そこをケンコバさんが絶妙なさじ加減で『なんにも知らなくていいんだよ』という気にさせてくれる。私たちもあえてちょっと置いてけぼり感があってもいいぐらいのところで、専門用語などもそのまま使うというスタンスでやっているんですけど。わからないけど、面白い。それを入口にして自分で深いところまで掘っていっていただければいいなというつもりでやっています」
実際、百田夏菜子やトリンドル玲奈らゲスト陣はポカンとした顔をしてついていけないといった感想を漏らしていたし、コカドケンタロウも「テレビって入り口の浅いところから入ってやっているのに(『明鏡止水』は)深いところから始まってより深くなる」と驚いていた。その通り、テレビは「わかりやすさ」を是としてきた歴史がある。
「これは制作者としての考えですが、今はYouTubeなどのネット動画全盛。そういう時代においてテレビは、従来の広く大勢の人向けにやっていくだけではいけないんじゃないかと思うんです。深いところをもう見ちゃってるんだよという視聴者が少なくない世の中ですし、むしろ、発信する側に多くの人が回っているわけですから、単純な受け手に対して出すという感覚はもう古いのかなと思います。そういう意味でも深いところまで行って、初めて満足感を得るという視聴者層が確実にいる。
そもそも『明鏡止水』のような番組にチャンネルを合わせる時点で、深いところを覗きたいという意欲がある方たちだと思うので、全くわからない人を気持ちいいくらい置いてけぼりにするような番組があってもいいと思うんです。ただ、そう見えるだけで、本当に置いてけぼりにしてはいないのが大事で、そのさじ加減は難しいですけどね。過剰な演出とか、出演者の方にある程度、方向づけをしてしまうとか、そういう手法は、全部見破られる時代だと思うので、そうでなくて全部本物、嘘じゃないものを『どうですか?』と差し出すというつもりでやっています。
目の肥えた方も、逆に武術に全く縁がなかったという方も視聴者に増えてきて、両方を大事にしなければならない。深さがないと相手にされないし、深ければいいというスタンスだとついていけない。行きつ戻りつですよね。
最終的にこの番組ですべてをわかってほしいとは全く思ってない。こういう深い世界があるということに興味を持って欲しい。何より、今は海外の方のほうが武道の本当の価値をわかっている人が多い。世界が日本の武道をものにしようとしている中で、もう一度、日本で日本の武道の価値を取り戻したい。メディアの世界にいる人間としては、そのひとつのきっかけになればいいなって思います」