「著者でもない、他人の本」に似顔絵を描いたら大行列が!
本の中の、ショートケーキのイラストも森岡さんによる。
「コロナの前には外国からもたくさんお客さんが来てくれるようになりまして。お土産を買いたいけど日本語の本だから、と言うので、似顔絵を描いて販売していたんです。著者でもない、他人の本に。SNSで拡散されて、大型バスが横付けされて大行列になって、それを見たかたに『挿絵描かない?』って言われて、挿絵も描くようになりました」
すっきりと味のある線で、店ごとに異なるショートケーキの立ち姿や美しい断面が表現されている。
「微妙に、少しずつ違うというのもまた、ショートケーキの醍醐味です。形もそうですけど、生クリームの硬さとか甘さですとか、スポンジの硬さや色。フルーツは、もちろん苺が多いけど、季節ごとに違ったりしてそこに季節を感じることもできます」
取材したときには立方体だったショートケーキが直方体になっているなど、同じ店でも少しずつ変化し続けていたりするそう。
全部で25通りのショートケーキが本では紹介されている。そのほとんどが、歴史のある、長く続いた店のショートケーキだ。
「リサーチの過程で、新しいお店もたくさん出てきましたし、実際、食べにも行きました。こういう本を作っている、と知ると、いろんなお客さんが『このショートケーキおいしいですよ』と持ってきてくださいましたし。確かにすごくおいしいんですけど、本では、長く続けていらっしゃることを一つの基準にお店を選びました」
エッセイの各章の最後に、人物や作品名の丁寧な注釈がついている。実在の人物の中に、架空の画家や建築家の名前が少しだけ入っていたり、客観的な記述が個人的な記憶につながっていったりもする。
「単なるお店紹介という形はとりたくないなと思ったんです。もちろんお店紹介の側面もありますけど、おいしさをそのまま表現するのでなく、エッセイとして、おいしさに衝撃を受けた自分が書いている、という形になったらいいなと思って書きました」