国内

「都合のいいところだけ切り取っている」──『回顧録』で安倍元首相に批判された前川喜平・元文科次官が大反論

学術会議問題で野党のヒアリングを受けた前川元次官(時事通信フォト)

学術会議問題で野党のヒアリングを受けた前川元次官(時事通信フォト)

 安倍政権を揺るがした危機のうちの1つが、加計学園の獣医学部新設認可問題だ。これは文部科学省が半世紀近く認めていなかった獣医学部の新設を、安倍政権が国家戦略特区の制度を利用して岡山理科大学に認めたことに端を発する。

 獣医学部の新設は岡山理科大学と京都産業大学の2校が申請していたが、安倍氏の米国留学時代からの「腹心の友」加計孝太郎氏が経営する学校法人・加計学園傘下の岡山理科大学の愛媛県今治キャンパスだけが認可されたことから、“安倍氏が友人の経営する大学に便宜を図ったのではないか”と問題視された。

『安倍晋三回顧録』(中央公論新社)の中で、安倍氏はこの加計学園問題について疑惑を全面的に否定している。

〈獣医学部の新設に私が全く関与していないことは明白でしょう。文科省の文書もいい加減だった。後に明らかになった文書には「国家戦略特区会議決定という形にすれば、総理が議長なので、総理からの指示に見える」と書いてありました。つまり、私の意向ではないのですよ〉

 この問題は、学部新設の許認可権を持つ文部科学省に、「これは総理のご意向」などと書かれた内部文書が存在することを朝日新聞(2017年5月17日付)が報じたことで国会は大紛糾。

 当時の菅義偉・官房長官は「怪文書みたいな文書。出どころも明確になっていない」と否定したが、前川喜平・元文部科学事務次官は記者会見を開き、「『獣医学部新設に係る内閣府からの伝達事項』との文書を示されたと記憶している」と内部文書の存在を明らかにし、官邸からの圧力について「圧力を感じなかったといえば、嘘になる」と踏み込んだ言い方をした。

 この「前川証言」をきっかけに安倍官邸は疑惑を封じ込めることができなくなり、内閣府や文科省の再調査で獣医学部認可に関係する数多くの内部文書やメールが発覚、疑惑が深まる結果になった。安倍氏は『回顧録』で前川氏を名指しでこう批判している。

〈この話は、前川喜平前文科事務次官が「行政が歪められた」と言って、不当な圧力で獣医学部新設が決まったと強調したことで大騒ぎになりましたが、真実は加戸守行前愛媛県知事が7月の参考人招致で語ったことに尽きます。

 加戸さんは、知事時代の10年まで3期12年の間、鳥インフルエンザや牛海綿状脳症(BSE)といった感染症対策のために、愛媛県今治市へ獣医学部を誘致しようとしたけれど、文科省への申請が一向に通らなかった、と国会で述べていました。「強烈な岩盤規制に国家戦略特区が穴を空けた。歪められた行政が正された」と言って、前川氏の発言を皮肉っていましたね。今治市選出の議員と、加計学園の事務局長が友人だったから、この話に飛びついたのに、「友達であればすべてダメなのか」とも語っていました。事の本質は、獣医師会の反対と、その意向を受けた農水省や文科省の岩盤規制があったということでしょう。

 ただ、私も国家戦略特区諮問会議の議長ですから、国会で「申請を知らなかった」とは言えなかったのです。いくつもある申請を、いちいち総理大臣が目を通すのは無理なのだけれども、形式的には知っていたことにしないといけないでしょう。そうすると、野党は「知っていたから、安倍が指示して選定したんじゃないか」と言ってくる〉

関連キーワード

関連記事

トピックス

無罪判決に涙を流した須藤早貴被告
《紀州のドン・ファン元妻に涙の無罪判決》「真摯に裁判を受けている感じがした」“米津玄師似”の男性裁判員が語った須藤早貴被告の印象 過去公判では被告を「質問攻め」
NEWSポストセブン
激痩せが心配されている高橋真麻(ブログより)
《元フジアナ・高橋真麻》「骨と皮だけ…」相次ぐ“激やせ報道”に所属事務所社長が回答「スーパー元気です」
NEWSポストセブン
Instagramにはツーショットが投稿されていた
《女優・中山美穂さんが芸人の浜田雅功にアドバイス求めた理由》ドラマ『もしも願いが叶うなら』プロデューサーが見た「台本3ページ長セリフ」の緊迫
NEWSポストセブン
トンボをはじめとした生物分野への興味関心が強いそうだ(2023年9月、東京・港区。撮影/JMPA)
《倍率3倍を勝ち抜いた》悠仁さま「合格」の背景に“筑波チーム” 推薦書類を作成した校長も筑波大出身、筑附高に大学教員が続々
NEWSポストセブン
12月6日に急逝した中山美穂さん
《追悼》中山美穂さん、芸能界きっての酒豪だった 妹・中山忍と通っていた焼肉店店主は「健康に気を使われていて、野菜もまんべんなく召し上がっていた」
女性セブン
自宅で亡くなっているのが見つかった中山美穂さん
【入浴中の不慮の事故、沈黙守るワイルド恋人】中山美穂さん、最後の交際相手は「9歳年下」「大好きな音楽活動でわかりあえる」一緒に立つはずだったビルボード
NEWSポストセブン
結婚披露宴での板野友美とヤクルト高橋奎二選手
板野友美&ヤクルト高橋奎二夫妻の結婚披露宴 村上宗隆選手や松本まりかなど豪華メンバーが大勢出席するも、AKB48“神7”は前田敦子のみ出席で再集結ならず
女性セブン
スポーツアナ時代の激闘の日々を振り返る(左から中井美穂アナ、関谷亜矢子アナ、安藤幸代アナ)
《中井美穂アナ×関谷亜矢子アナ×安藤幸代アナ》女性スポーツアナが振り返る“男性社会”での日々「素人っぽさがウケる時代」「カメラマンが私の頭を三脚代わりに…」
週刊ポスト
NBAロサンゼルス・レイカーズの試合を観戦した大谷翔平と真美子さん(NBA Japan公式Xより)
《大谷翔平がバスケ観戦デート》「話しやすい人だ…」真美子さん兄からも好印象 “LINEグループ”を活用して深まる交流
NEWSポストセブン
(時事通信フォト)
「服装がオードリー・ヘプバーンのパクリだ」尹錫悦大統領の美人妻・金建希氏の存在が政権のアキレス腱に 「韓国を整形の国だと広報するのか」との批判も
NEWSポストセブン
自宅で亡くなっているのが見つかった中山美穂さん
《私には帰る場所がない》ライブ前の入浴中に突然...中山美穂さん(享年54)が母子家庭で過ごした知られざる幼少期「台所の砂糖を食べて空腹をしのいだ」
NEWSポストセブン
亡くなった小倉智昭さん(時事通信フォト)
《小倉智昭さん死去》「でも結婚できてよかった」溺愛した菊川怜の離婚を見届け天国へ、“芸能界の父”失い憔悴「もっと一緒にいて欲しかった」
NEWSポストセブン