牛乳余りが深刻で、製造にストップをかけられた日本(時事通信フォト)
「牛乳搾るな牛殺せ」
このままでは日本は世界で最初に飢えることになる──食料安全保障の危機は、すでに何年も前から予測され、筆者も警鐘を鳴らしてきた。しかし、日本の政治家たちはそれをまったく認識していない。実際、昨年1月に発表された岸田文雄首相の施政方針演説では「経済安全保障」だけが語られ、「食料安全保障」「食料自給率」についての言及は皆無だった。農業政策の目玉は「輸出5兆円」「デジタル農業」など、ほとんど夢のような話に終始している。
日本人には、「食料やそのもととなる種や飼料を過度に海外依存していては国民の命は守れない」という現実が突きつけられており、国産の食料を少しでも増やし、自給率を上げることが何よりの急務。つまり日本各地で頑張っている農家を国を挙げて支えることこそが、自分たちの命を守ることにつながるはずだ。
にもかかわらず、政府は真逆の政策を取っている。
その最たるものは、国内生産の命綱ともいえる米だ。国内の米の価格はどんどん下がっており2022年はコロナ禍の消費減も加わって、1俵60kg=9000円まで下がった。生産コストは1俵当たり平均1万5000円かかるため、作るほどに赤字になるのは明白だ。しかし政府が取った対応は、支援や補填ではなく「余っているから米はこれ以上作る必要はない」と苦境に立つ農家を切り捨てるものだった。
同様の危機は、酪農家にも起きている。2020〜2021年にかけて、コロナ禍による一斉休校に伴う給食需要や外食産業、観光地の土産菓子などの需要が蒸発したことによって、深刻な「牛乳余り」が発生した。しかしこのときも政府は「余っている牛を殺せ。殺せば1頭当たり15万円払う」という政策を打ち出した。だが、乳牛は種付けから搾乳できるまで最低3年はかかる。近いうちに乳製品が足りなくなったとしても牛は淘汰されていて、また大騒ぎになることが目に見えている。