──コロナ以降は映像を撮るのも大変になってしまいましたよね。
安齋:番組終了にはいろんな要素があるとは思いますが、「空耳アワー」に関して言えば、映像を作るのにだいぶ手こずってたみたいです。僕は制作側の人間ではないので、細かいことはわからないですよ。でも「空耳」の映像って、パンツ1丁になったり、おっさん同士がキスしたりと、コンプラ的なこともあるんじゃないかな。
「空耳」の名作に「フィッシュボーン」というバンドの『スイム』という曲で「おじいちゃ~ん! ざっぼ~ん!」というのがあるんですが、あれとか今ちょっと放送できるかどうかギリギリですよね。
──おじいちゃんが歩いているところにセンタリングしたサッカーボールが直撃して、おじいちゃんが倒れて池に落ちるやつですね。
安齋:あれ、予定ではあんな飛び込まなくてよかったらしいんです。片足ハマるくらいでよかったのに、思ってたより深くて、おじいちゃんコントロール失って本当に落っこっちゃったんだって。もうスタッフは慌てたらしいですよ。今じゃ絶対だめですよね。ペンギンの池に落ちたくらい大問題になりますよ。
普通のイラストレーターに戻ります
──「空耳アワー」が始まるとき、たまたま当時の放送作家の方が安齋さんをご存知だったことで出演することになったそうで、それも1回だけの出演のつもりだったそうですが、気づけば30年以上続く長寿コーナーになったうえに最後まで出演されました。こんなに長い付き合いになるなんて思ってなかったですよね?
安齋:そりゃそうですよ! 最後の放送で、僕も映像に出演したそれこそ30年前のネタが流れましたが、すごく残酷だなって思いました。30年前の自分の姿からすれば今なんておじいさんですから。
番組の反響はやっぱり大きかったですよね。一番は、電車の中で中学生が僕を見て「空耳がいる!」と騒ぎ出したときですかね。中学生に指差されるなんて、「すごいな~、テレビって」って思いました。あと、僕の妹が小学校の先生をやっていたんですけど、小学校でも「先生のお兄さんが空耳アワー」と噂になってしまったそうです。それで生徒に「先生、ソラミミストになるにはどうすればいいですか」って聞かれたって。それはすごいですよね。
──そんなソラミミストも引退ですね。
安齋:引退と言っても、僕が勝手にソラミミストと名乗っただけで、誰かに認められたわけでもないんですよ。だから引退というのも変な話なんですけど。でも自称なんだから、自分で引退してもいいですよね。
今までは、やっぱりどうしたってソラミミストというのがついてきちゃうというのはありました。それはありがたいことなんです。みうらじゅんにも言われましたが、イベントに僕を呼んで紹介するとき、「イラストレーターの安齋さんです」って言っても拍手はまばらだったんですよ。でも「空耳アワーの安齋さんです」と言うとみんなキャーって言ってくれる。みうらくんは「ゲストは『空耳アワー』と言えるようになって嬉しい」と言ってました。
でもこれからは、僕はソラミミストの肩書を下ろして、普通のイラストレーターに戻りたいと思います。例えばキャラクターを描いたら、そのキャラクターが独り歩きできるように、僕が表に出ないで後ろ側に入れるようにもなりますよね。ソラミミストが描いたから、というのもなくなるので、これからは真剣に、もっと真正面から絵を描いていこうと思います。今までは何だったんだっていう話ですけど。