大人たちの抱える現実も、観た人それぞれに身につまされるポイントがあるのではないだろうか。1話では、唯一安定しているように見える大家さんが「家賃を滞納する人がいるかもしれない。アパートの大家なんて水物だ」と副業に精を出しているシーンが描かれる。
また、児童養護施設時代の親友・岩永佑(松島聡・Sexy Zone)が、「俺の仕事(工事現場の誘導係)なんて誰でもできる」とやさぐれると、コタローが「そんなことはない。おぬしがいるから、安全に通行ができるのだ。立派な仕事だ」と語る。
コタロー自身は、自分が仕事をしていないこと、手に職がないことに不安を感じ焦っている。毎月の生活費は篤志家からの寄付だと伝えられており、子供ながらにその援助が終わる日が来ることを恐れているのだ。それでもさまざまな大人達と出会い、関わることで、日々が先へと続いていく。
根深く残る不安はあるが、それも「大丈夫」と思わせてくれる。週が終わる土曜日の深夜、図太く生きる庶民の姿に元気をもらい、心がふわっと和らぐ。心の重荷をドラマの登場人物たちが軽くしてくれるのだ。
前作はコロナ禍に放送され、人とのつながりを描いた温かなドラマは大喝采のうちに終わった。それから2年が経過し、物価高騰、世界的な政情不安定、格差の拡大がより顕著になった。
個人責任が叫ばれ、人々の分断は未だ続いているという報道が連日されている。でも、自分の周りはどうだろうか? 世の中は自分が思っているよりも優しいところもあって、そういう視点から現実を見るようにすれば、不安から抜け出すことができるのではないか……。『帰ってきたぞよ! コタローは1人暮らし』は、一見平凡な日々も肯定的に見ることを私たちに教えてくれる。
そして自分も身近な誰かにちょっとやさしく声をかけてみようか、そんな気持ちにさせてくれる。
文/前川亜紀