ライフ

【新刊】村上春樹氏がコロナ禍で書いた待望の長編『街とその不確かな壁』など4冊

コロナ禍で書き進められた待望の長編
この“世界”、不思議にしっとり肌になじむ

コロナ禍で書き進められた待望の長編 この“世界”、不思議にしっとり肌になじむ

 春の日差しが暖かくなってきたこの季節。公園で日向ぼっこでもしながら読書を楽しんで見るのもいいのでは? もちろん、屋内でも没頭できる、注目の新刊4冊を紹介します。

『街とその不確かな壁』
村上春樹/新潮社/2970円

 17の頃の恋の記憶と、時間のない街の図書館で中年の「ぼく」が夢読みの仕事をする第一部(異世界譚)。会社を辞め福島の山間の図書館長になる第二部(一見リアリズム小説)。一瞬別の小説かと思うような接続でも幽霊やギフテッド(天才児)の登場が二つを繋ぐ。「夢と現実」「実存と(分身的)影」の入れ子細工構造。題名を換言すると“存在とその不確かな手応え”になるのかも。

『プレバト!!』でめきめき育った俳句脳
「銀盤の弧の凍りゆく明けの星」は副教材に

『プレバト!!』でめきめき育った俳句脳 「銀盤の弧の凍りゆく明けの星」は副教材に

『句集 一人十色』
梅沢富美男著・夏井いつき監修/ヨシモトブックス(発売ワニブックス)/1540円

 題名は役者、女形、歌手等の顔を持つ著者の多面体人生を表したもの。教科書の副教材に採られた句を含む50選のほか、夏井いつき先生との対談、永世名人に上りつめるまでの歴代句や添削ビフォアアフターを収める。印象的なのは舞台で575のリズムは会得していたものの、俳句の鮮烈さが語順と“説明しない潔さ”にあることを教わる添削。俳句で人間観察力も高まるそうですよ。

旅する岩手生まれの犬(多聞)
絆を低湿度の文章で記述する直木賞作

旅する岩手生まれの犬(多聞) 絆を低湿度の文章で記述する直木賞作

『少年と犬』
馳星周/文春文庫/858円

 利発な犬(多聞)が人と土地を旅する。震災後の困窮で犯罪の片棒を担ぐ仙台の和正青年、気ままな夫に苛立つ40才の富山の紗英、事故で両親と右脚を失った10代の福井の瑠衣、余命いくばくもない元猟師の島根の老人。彼らの前に突然現れる多聞は、折口信夫のいう「まれびと」(稀人。他界からやってきて歓迎される)のよう。多聞の目的地とは。犬好きは最終話で涙腺が決壊する。

東京ではあり得ない関西圏共同体の温もり
ダウン症の弟さんって“幸福を売る男”みたい

東京ではあり得ない関西圏共同体の温もり ダウン症の弟さんって“幸福を売る男”みたい

『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった+かきたし』
岸田奈美/小学館文庫/693円

 5月中旬からこの自伝的エッセイを原案にしたTVドラマがスタート。岸田家は車椅子の母、会社勤めに挫折して作家に転身したご本人、ダウン症の弟の3人家族。お国が決めた「標準世帯」からは大きく外れているけれど、姉弟で温泉旅行に行ったり母と海外に招待視察で行ったりと陽気な逞しさは驚くばかり。表紙絵も著者の手になるもの。その顚末を書いた「かきたし」にも笑う。

文/温水ゆかり

※女性セブン2023年5月11・18日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

交際が報じられた赤西仁と広瀬アリス
《赤西仁と広瀬アリスの海外デートを目撃》黒木メイサと5年間暮らした「ハワイ」で過ごす2人の“本気度”
NEWSポストセブン
世界選手権東京大会を観戦される佳子さまと悠仁さま(2025年9月16日、写真/時事通信フォト)
《世界陸上観戦でもご着用》佳子さま、お気に入りの水玉ワンピースの着回し術 青ジャケットとの合わせも定番
NEWSポストセブン
秋場所
「こんなことは初めてです…」秋場所の西花道に「溜席の着物美人」が登場! 薄手の着物になった理由は厳しい暑さと本人が明かす「汗が止まりませんでした」
NEWSポストセブン
身長145cmと小柄ながら圧倒的な存在感を放つ岸みゆ
【身長145cmのグラビアスター】#ババババンビ・岸みゆ「白黒プレゼントページでデビュー」から「ファースト写真集重版」までの成功物語
NEWSポストセブン
『徹子の部屋』に月そ出演した藤井風(右・Xより)
《急接近》黒柳徹子が歌手・藤井風を招待した“行きつけ高級イタリアン”「40年交際したフランス人ピアニストとの共通点」
NEWSポストセブン
和紙で作られたイヤリングをお召しに(2025年9月14日、撮影/JMPA)
《スカートは9万9000円》佳子さま、セットアップをバラした見事な“着回しコーデ” 2日連続で2000円台の地元産イヤリングもお召しに 
NEWSポストセブン
高校時代の青木被告(集合写真)
《長野立てこもり4人殺害事件初公判》「部屋に盗聴器が仕掛けられ、いつでも悪口が聞こえてくる……」被告が語っていた事件前の“妄想”と父親の“悔恨”
NEWSポストセブン
世界的アスリートを狙った強盗事件が相次いでいる(時事通信フォト)
《イチロー氏も自宅侵入被害、弓子夫人が危機一髪》妻の真美子さんを強盗から守りたい…「自宅で撮った写真」に見える大谷翔平の“徹底的な”SNS危機管理と自宅警備体制
NEWSポストセブン
鳥取県を訪問された佳子さま(2025年9月13日、撮影/JMPA)
佳子さま、鳥取県ご訪問でピンクコーデをご披露 2000円の「七宝焼イヤリング」からうかがえる“お気持ち”
NEWSポストセブン
長崎県へ訪問された天皇ご一家(2025年9月12日、撮影/JMPA)
《長崎ご訪問》雅子さまと愛子さまの“母娘リンクコーデ” パイピングジャケットやペールブルーのセットアップに共通点もおふたりが見せた着こなしの“違い”
NEWSポストセブン
ウクライナ出身の女性イリーナ・ザルツカさん(23)がナイフで切りつけられて亡くなった(Instagramより)
《監視カメラが捉えた残忍な犯行》「刺された後、手で顔を覆い倒れた」戦火から逃れたウクライナ女性(23)米・無差別刺殺事件、トランプ大統領は「死刑以外の選択肢はない」
NEWSポストセブン
国民に笑いを届け続けた稀代のコント師・志村けんさん(共同通信)
《恋人との密会や空き巣被害も》「売物件」となった志村けんさんの3億円豪邸…高級時計や指輪、トロフィーは無造作に置かれていたのに「金庫にあった大切なモノ」
NEWSポストセブン