「ぼくは賞が大好きです。でもこうやって華やかな映画祭でスピーチするのは、好きじゃない」──5月27日に行われたカンヌ国際映画祭の受賞スピーチで、会場を笑わせたのは、日本の俳優として2人目となる最優秀男優賞を獲得した役所広司(67才)だ。
受賞作の映画『PERFECT DAYS』は、東京・渋谷でトイレ清掃員として働く男性の日常を映し出したヒューマンドラマで、メガホンを取ったのは、『パリ、テキサス』(1984年)や『ベルリン・天使の詩』(1987年)などで知られる巨匠ヴィム・ヴェンダース監督だ。
同じくカンヌ映画祭でクィア・パルム賞(*性的マイノリティや既存の性のカテゴリーに当てはまらない人を扱った映画に与えられる賞のひとつ)と脚本賞を受賞した『怪物』(脚本賞は坂元裕二氏が受賞)の監督・是枝裕和氏が「もっと早くとっててもよかった」と評価したように、役所は日本を代表する俳優のひとりだ。
多くの話題作に立て続けに出演し、順風満帆な俳優人生を送ってきたように見える役所だが、俳優としてのスタートは早かったとはいえない。高校卒業後、長崎から上京し、4年間の千代田区役所勤務を経て、1978年、22才のときに仲代達矢(90才)の無名塾に参加した。
「彼を支えてきたのが、1982年に結婚した4才年上の妻・さえ子さんです。彼女は無名塾の先輩で、当時は『河津左衛子』の名で俳優座の中堅女優として活躍していました。無名俳優との結婚だけに、彼女の両親はとても心配したそうですよ。最初の住まいは家賃3万円、8畳一間のアパートでした」(演劇関係者)
結婚を機に役所の人生は一気に上昇に転じる。結婚して間もなく、1983年の大河ドラマ『徳川家康』(NHK)の織田信長役への抜擢が決まり、翌年にはNHKドラマ『宮本武蔵』で初主演を果たす。1984年には夫婦で芸能プロダクションを設立し、役所は現在もそこに在籍。スケジュール管理も出演の最終判断も、すべてさえ子さんが行っているという。
「さえ子さんはまさに『福の神』です。さえ子さんは仕事にもとても厳しいので、役所さんは彼女の評価を何よりも気にしている。彼がこれまで順風満帆にキャリアを積んでこられたのは、彼女の愛のムチがあればこそでしょう」(前出・演劇関係者)
役所は倹約家としても知られているが、その陰にもさえ子さんの存在があるようだ。
「いちばん格上なのに、役所さんが飲み会でみんなの分まで払うことはないといっていい(笑い)。どうやら奥さんにお金の使い道を厳しく管理されているようで、“自由に使えるお金がない”とこぼしていたこともありました」(映画関係者)