ライフ

金原ひとみ氏インタビュー「本来正しさを斜めに見て穿つはずの小説が正論を吐かざるをえない世の中はおかしい」

金原ひとみ氏が新作について語る

金原ひとみ氏が新作について語る

『蛇にピアス』から20年、『マザーズ』から12年。金原ひとみ氏は初めて10代の目線から描いた新作青春小説『腹を空かせた勇者ども』の帯に、自らこう言葉を寄せる。〈この世に小説が存在していることを知らないような愛しい陽キャの小説を書きました〉

「私は重めの小説と明るい小説を同時並行で書いたり、両極端に走る傾向があるんですが、これはちょうど『アンソーシャル ディスタンス』と同時期に書いていた、ポップな方の作品ですね。うちも長女が今年高1で、私とは全然違う青春を送る陽キャな子なので、過去の自分というよりは、他者を探る感じで、驚きと発見の中で書いていました」(金原氏、以下同)

 主人公は都内の私立中に英語入試で入学し、部活のバスケや2.5次元アイドル〈ラブドリ〉の推し活に大忙しのレナレナこと、〈森山玲奈〉14歳。映画配給会社で働くママに彼氏がいて、それをパパも公認していることや、ラブドリの武道館ライブが今年の夏は配信になるなど、コロナがモヤモヤした気持ちに一層追い打ちをかける中、玲奈はママが持たせた弁当の他にもパンやお菓子を買い食いし、14歳はとにかくお腹が空くのである。

「主人公を14歳に設定した時点で育ち盛りの子のケダモノ感とか語彙の乏しさもリアルに描きたかったし、ルビも要らないほど平易な言葉で全体を書き切ろうと。

 ただそうすると自分なら一言で言えることがまるで言えなかったりしますし、その言語化できない思いを整理する人がいれば全体が見通しやすくなるかなあと思って、ちょっと弁が立ち過ぎるくらいの母親と、思いを伝えたくてもがく娘を対にしました。

 私ですか? 私は昔から何でも言葉にしたくなるし、人の話も『つまりこういうこと?』と、ついまとめてしまいがちなタイプですね。私自身の母はどちらかと言うと感情に流されるタイプの人だったので、玲奈のママみたいな“理性と言語化タイプ”の母親に憧れはあったし、自分もこうなりたいという、一種の理想でもあります」

 そのママに恋人がいて、パパも今では納得しているらしいことを、玲奈は受け入れつつも思う。

〈世の中にはいろんなママがいて、どれが最高ってことはないと分かってるけど、十歳くらいの頃にママと自分が人としてものすごく「違う」ことに気づいてから、どんなに彼女に優しくされ抱きしめられ褒められても、どことなく私とママとの間には越えられない壁がある〉

 ママは週に2、3日ほど彼と出かけ、外泊も多いが、それでも毎日のご飯や弁当を作り置きしてでも用意し、玲奈の食べたい物がママにだけはわかるほど、胃袋を掴まれているのも事実だ。

関連記事

トピックス

大谷が購入したハワイの別荘の広告が消えた(共同通信)
【スクープ】大谷翔平「25億円ハワイ別荘」HPから本人が消えた! 今年夏完成予定の工期は大幅な遅れ…今年1月には「真美子さん写真流出騒動」も
NEWSポストセブン
運転席に座る広末涼子容疑者
《追突事故から4ヶ月》広末涼子(45)撮影中だった「復帰主演映画」の共演者が困惑「降板か代役か、今も結論が出ていない…」
NEWSポストセブン
江夏豊氏(右)と工藤公康氏のサウスポー師弟対談(撮影/藤岡雅樹)
《サウスポー師弟対談》江夏豊氏×工藤公康氏「坊やと初めて会ったのはいつやった?」「『坊や』と呼ぶのは江夏さんだけですよ」…現役時代のキャンプでは工藤氏が“起床係”を担当
週刊ポスト
殺害された二コーリさん(Facebookより)
《湖の底から15歳少女の遺体発見》両腕両脚が切断、背中には麻薬・武装組織の頭文字“PCC”が刻まれ…身柄を確保された“意外な犯人”【ブラジル・サンパウロ州】
NEWSポストセブン
金正恩(中央)と娘の金ジュエ(右)。2025年6月29日に撮影され、2025年6月30日に北朝鮮の国営通信社(KCNA)が公開した写真より(AFP=時事)
《“爆速成長”と注目》金正恩総書記の13歳娘が身長165cmに!北朝鮮で高身長であることはどんな意味を持つのか 
山本由伸の自宅で強盗未遂事件があったと報じられた(左は共同、右はbackgrid/アフロ)
「31億円豪邸の窓ガラスが破壊され…」山本由伸の自宅で強盗未遂事件、昨年11月には付近で「彼女とツーショット報道」も
NEWSポストセブン
佳子さまも被害にあった「ディープフェイク」問題(時事通信フォト)
《佳子さまも標的にされる“ディープフェイク動画”》各国では対策が強化されるなか、日本国内では直接取り締まる法律がない現状 宮内庁に問う「どう対応するのか」
週刊ポスト
『あんぱん』の「朝田三姉妹」を起用するCMが激増
今田美桜、河合優実、原菜乃華『あんぱん』朝田三姉妹が席巻中 CM界の優等生として活躍する朝ドラヒロインたち
女性セブン
別府港が津波に見舞われる中、尾畠さんは待機中だ
「要請あれば、すぐ行く」別府湾で清掃活動を続ける“スーパーボランティア”尾畠春夫さん(85)に直撃 《日本列島に津波警報が発令》
NEWSポストセブン
モンゴルを公式訪問された天皇皇后両陛下(2025年7月16日、撮影/横田紋子)
《モンゴルご訪問で魅了》皇后雅子さま、「民族衣装風のジャケット」や「”桜色”のセットアップ」など装いに見る“細やかなお気遣い”
大谷家の別荘が問題に直面している(写真/AFLO)
大谷翔平も購入したハワイ豪華リゾートビジネスが問題に直面 14区画中8区画が売れ残り、建設予定地はまるで荒野のような状態 トランプ大統領の影響も
女性セブン
休場が続く横綱・豊昇龍
「3場所で金星8個配給…」それでも横綱・豊昇龍に相撲協会が引退勧告できない複雑な事情 やくみつる氏は「“大豊時代”は、ちょっとイメージしづらい」
週刊ポスト