「自分の熱意が単なるおせっかいになることだってある。自分と他人は違うと言葉ではわかるけど、愛情が強いほどわからなくなって、執着が生まれる。それが人間関係を壊してしまう根源だとも感じています。だからこそ、線引をしなくてはいけないのに、執着を手放すことは難しいですよね」
そして、50歳という年齢とコロナ禍の3年間があって、少しずつ自分の問題点を受け入れていったという。
「歯を食いしばってきた怒濤の20年間の内省を続けていくうちに、いちど自分を立て直さなくてはと。それまで事務所に守っていただいたことにも改めて感謝し、これからは自力でやっていこうと決めたんです」
この業界にはびこる腐敗に目をそむけないで発信していく
演技と同様に、舞台やプロデュースなど総合的なものづくりにももっと力を入れたいと考え、そのタイミングと事務所の契約満了が重なっての独立となった。
過去の報道について、これまで彼女自身の言葉で語られたことはなかったので、質問するのはちょっと躊躇することもあったが、全ての質問にまっすぐに答えてくれた。
「この業界、『沈黙が身を守る』と教えられてきました。どんなに言いたいことがあっても理不尽と感じても、ことを荒立てないためには、時が過ぎるのをひっそりと息をひそめて待つしかないって。ただ、自分を守るだけだったらそれでもいいのかもしれないけど、この世界にはびこる腐敗には目をそむけてはいけないって思うようになりました」
映画監督らの性加害報道が相次いだ昨年、鈴木砂羽は「note」(記事の投稿、配信をするメディアプラットホーム)で自らの経験を公表した。10数年前に映画監督とプロデューサーとの会食で行われた臨場感あふれる描写、強い心情と率直な言葉は、多くの人の心を打ち、瞬く間に拡散する。
「これ以上自分に嘘はつけないし、蓋をして生きていくことはできない。だって、黙っていたら、これからもまたきっと同じことが起こってしまう。自分のような立場の俳優が発信することで、被害を防げたり、少しでも勇気や励ましになればと思いました。この業界には素晴らしい才能をもった尊敬できる方達もたくさんいらっしゃるから」
ものづくりへのあふれる愛が彼女のパワーの源泉だ。全力で投げるド直球を受け止めてもらえないこともあるかもしれない。それでも鈴木砂羽は、自分に噓はつけないし、他者への愛を惜しみなく注ぐ。
初めて会ったにもかかわらず、まるで昔からの知り合いのように敷居を低く、懐を広げて会話してくれた。女優のオーラをまといながら、居酒屋で隣の席にいたら、普通に話しかけてしまいそうな親近感。不思議な魅力を感じた。
後編(7月16日配信予定)では、49歳のときに受けた子宮筋腫の手術について、更年期など「女性の揺らぎ」について話は続く。
撮影/熊谷直子 スタイリスト/柴田圭 ヘアメイク/杉村理恵子 取材・文/前川亜紀
プロフィール◆鈴木砂羽(すずきさわ) 1972年生まれ。静岡県浜松市出身。94年に映画『愛の新世界』で主演デビューを果たし、第37回ブルーリボン賞新人賞、キネマ旬報新人賞、毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞などを受賞した。テレビ朝日の人気ドラマ『相棒』シリーズに出演。ドラマ、映画、舞台、バラエティーの他にも舞台演出、マンガの執筆など幅広い表現ジャンルで活躍中。