芸能

キャンディーズ、小泉今日子、河合奈保子、松田聖子、早見優…昭和アイドルの夏ソングはなぜ今も心に残るのか

キャンディーズ『暑中お見舞い申し上げます』(1977年)

キャンディーズ『暑中お見舞い申し上げます』(1977年)。郵政省の暑中見舞い葉書のCMソングに起用された

 1970年代後半から1980年代前半にかけて、世は空前のアイドルブームに沸いた。テレビや映画でその笑顔を見ない日はなく、そんなアイドルを象徴した歌が“夏ソング”だった。

「アイドルの夏ソングは、夏休みに入った解放感で、これまでにない恋の期待に高まる若者たちの心をピンポイントでくすぐりました」

 こう語るのは社会学者の太田省一氏だ。真っ白な砂浜、きらきらした太陽、まばゆい水着姿。夏をイメージさせる軽妙な歌詞とアップテンポな楽曲で、若者たちに疑似恋愛の夢を見させた。アイドルたらしめた曲が夏ソングともいえる。

「当時のアイドルファンは、思春期の若者たちが大半を占めていました。夏ソングが今でも忘れられない印象があるのは、こうした最も恋愛に関心が高い時期と重なったことも決して無関係ではありません」(太田氏)

 夏ソングを聴けば、青春を取り戻せるかもしれない。太田氏は、「夏ソングは南沙織の『17才』からはじまった」と語る。

「聴くものの心を躍らせる“夏ソング”といえば、南沙織さんが歌った『17才』が嚆矢といえます。海辺の男女の恋愛模様を歌って、昭和のアイドル像を確立しました。

 その後、昭和を代表するアイドル松田聖子さんは、『青い珊瑚礁』で大ブレイクし、さらに『小麦色のマーメイド』で“大人のバラード調”という新たな夏ソングのジャンルを生み出しました。

 令和の今、『僕』という一人称による男性目線の恋愛ソングが増えています。乃木坂46の『ガールズルール』は、女の子同士で遊ぶ夏がテーマです。女性も共感できる内容で、現代の夏ソングは男女問わずファンの間口を広げているといえます」

 一方、『翼をください』『瀬戸の花嫁』などを手掛けた作詞家の山上路夫氏は、天地真理との仕事について、このように語る。

「これまで3000曲以上手掛けたなかで、天地真理さんとの仕事は特別でした。1973年の『恋する夏の日』当時の天地さんは、まさに“国民的アイドル”。事務所のこだわりも相当で、とにかく『汚さないで』というのが要望でした。『男の影はいいが、側にはいないように』というのです。

 私の中で彼女の夏のイメージは軽井沢でしたから、テニスコートで彼氏を待つという描写にしました。他の曲で『歩きながら彼を想う』としたら、『いつも歩かせている』とファンからクレームが入ったことも(笑)。歌詞にイメージを投影した昭和アイドルの模範のような存在でした」

【プロフィール】
太田省一(おおた・しょういち)/1960年生まれ、富山県出身。東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得満期退学後、アイドルや歌謡曲などポピュラー文化をテーマに執筆活動を行なっている。著書に『ニッポン男性アイドル史 一九六〇―二〇一〇年代』(青弓社)などがある

山上路夫(やまがみ・みちお)/1936年生まれ、東京都出身。雑誌の歌詞募集に当選し、作詞家デビュー。『翼をください』(赤い鳥)、『瀬戸の花嫁』(小柳ルミ子)など、数々のヒット作を手掛けた

取材・文/小野雅彦

※週刊ポスト2023年8月4日号

関連記事

トピックス

降谷健志の不倫離婚から1年半
《降谷健志の不倫離婚から1年半の現在》MEGUMIが「古谷姓」を名乗り続ける理由、「役者の仕事が無く悩んでいた時期に…」グラドルからブルーリボン女優への転身
NEWSポストセブン
警視庁がオンラインカジノ店から押収したパソコンなど(時事通信フォト)
《従業員や客ら12人現行犯逮捕》摘発された店舗型オンカジ かつての利用者が語った「店舗型であれば”安心”だと思った」理由とは?
NEWSポストセブン
橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン
10年に及ぶ山口組分裂抗争は終結したが…(司忍組長。時事通信フォト)
【全国のヤクザが司忍組長に暑中見舞い】六代目山口組が進める「平和共存外交」の全貌 抗争終結宣言も駅には多数の警官が厳重警戒
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《前所属事務所代表も困惑》遠野なぎこの安否がわからない…「親族にも電話が繋がらない」「警察から連絡はない」遺体が発見された部屋は「近いうちに特殊清掃が入る予定」
NEWSポストセブン
放送作家でコラムニストの山田美保子さんが、さまざまな障壁を乗り越えてきた女性たちについて綴る
《佐々木希が渡部建の騒動への思いをストレートに吐露》安達祐実、梅宮アンナ、加藤綾菜…いろいろあっても流されず、自分で選択してきた女性たちの強さ
女性セブン
看護師不足が叫ばれている(イメージ)
深刻化する“若手医師の外科離れ”で加速する「医療崩壊」の現実 「がん手術が半年待ち」「今までは助かっていた命も助からなくなる」
NEWSポストセブン
(イメージ、GFdays/イメージマート)
《「歌舞伎町弁護士」が見た恐怖事例》「1億5000万円を食い物に」地主の息子がガールズバーで盛られた「睡眠薬入りカクテル」
NEWSポストセブン
キール・スターマー首相に声を荒げたイーロン・マスク氏(時事通信フォト)
《英国で社会問題化》疑似恋愛で身体を支配、推定70人以上の男が虐待…少女への組織的性犯罪“グルーミング・ギャング”が野放しにされてきたワケ「人種間の緊張を避けたいと捜査に及び腰に」
NEWSポストセブン
和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
【新宿タワマン殺人】和久井被告(52)「バイアグラと催涙スプレーを用意していた…」キャバクラ店経営の被害女性をメッタ刺しにした“悪質な復讐心”【求刑懲役17年】
NEWSポストセブン
女優・遠野なぎこの自宅マンションから身元不明の遺体が見つかってから1週間が経った(右・ブログより)
《上の部屋からロープが垂れ下がり…》遠野なぎこ、マンション住民が証言「近日中に特殊清掃が入る」遺体発見現場のポストは“パンパン”のまま 1週間経つも身元が発表されない理由
NEWSポストセブン
幼少の頃から、愛子さまにとって「世界平和」は身近で壮大な願い(2025年6月、沖縄県・那覇市。撮影/JMPA)
《愛子さまが11月にご訪問》ラオスでの日本人男性による児童買春について現地日本大使館が厳しく警告「日本警察は積極的な事件化に努めている」 
女性セブン