「本音言うとさ、ここんとこ、甲子園に行きたい気分じゃなかったんだよね。要は、かったるくなっちゃったんですよ。高いチケットを買ったり、(雨天順延などによって)払い戻して改めてチケットを取り直したり、面倒じゃないですか。オレにとって、甲子園は最前列で観るもの。だって、迫力が違うじゃない。決して、テレビに映りたいからあの席に座っていたわけじゃないんですよ。あの席で20年近く高校野球を観戦してきたから、本音を言うとさ、『73列』に座りたいんだけど、現在は子供たちのためのシートになっている。仕方ないよね。」
甲子園に乗り込む日は「誕生日」
それじゃあ、この夏も甲子園には来ないつもりだろうか。
「いや、行くよ。ネット記事のコメント欄などで『(ラガーさんが)引退した』なんて書かれているのが気分悪くてね。オレは引退するなんて一言も言っていないから。昨日(8月9日)、みどりの窓口に1時間並んで13日の新幹線の切符を取りました。本当はその日から観戦したかったんだけど、確保出来たチケットは14日から3日間だけ。2席確保している友人が、荷物置き場にしようとしていた座席を譲ってくれるらしいんだよね」
野球観戦に「引退」も何もないだろう。それはさておき、1999年頃から野宿観戦を続けていたラガーさんの存在をテレビ中継が有名にし、いつしかラガーさんは甲子園の水先案内人のようにちやほやされる立場となっていた。書籍を3冊も出版し、いつも写真やサインをおねだりされていた。しかし、ラガーさんを含む通称・8号門クラブが当時自由席だったバックネット裏を占拠することが問題視され、ドリームシート導入の遠因となった。さらにラガーシャツに黄色い帽子というド派手な格好がテレビに映り続け、時折、居眠りすることも、高校野球ファンの顰蹙を買っていた。
「ずっと8号門の前に野宿しているとさ、熟睡できないんですよ。いろんな人に声かけられたりもするからさ。歳も重ねて疲れが取れないから、寝ちゃうんですよね。それについてはごめんなさい。今回は民泊するから、大丈夫じゃないかな。それより心配なのは暑さ。もうすっかり、クーラーの効いた部屋で高校野球観戦する身体になっちゃったから。直射日光を浴びて耐えられるか心配だよね……」
新幹線に乗り込む8月13日はラガーさんの58回目の誕生日だ。およそ1年半ぶりの甲子園で、ラガーさんが暴走しないことをただただ祈りたい。
♦取材・文/柳川悠二(ノンフィクションライター)