行方不明から3週間後の4月16日。警察から賢三さんとみられる遺体が発見されたと電話がかかってきた。霊安室に向かったマユミさんは、「遺体のいたみが激しいから会わない方がいいのでは」と警察に止められた。しかし、やはり一目でもと思い、顔を見せてもらった。一瞬で、すぐに賢三さんだと分かった。
マユミさんの目からは、いつの間にか涙があふれていた。
「ただただ残念で、どうしてこんなふうになってしまったんだろうって。本当に泣けるだけで、何も考えられず、とにかくなぜなくなってしまったんだろうと。なぜ見つけてあげられなかったのか。そんな気持ちでいっぱいでした」
賢三さんが倒れていたのは、自宅から500メートルほど離れたところ所にある民家の敷地だった。川沿いの場所にあり、道路を隔てるものはなかったため、迷い込んでしまったとみられている。雑草がおいしげっていて、周囲から死角になっており、住人も普段立ち入らない所だったため分からず、屋根を修理に来た職人が、人が倒れていることに気付いたのだった。
検視の結果は「凍死」だった。娘の裕子さんは、その民家の前の道路を捜していたことをはっきりと覚えていた。
「やっと会えたと思いながらも、もっと早く見つけてあげられなくて、本当にごめんねって言いました」
愛する家族を突如として失う理不尽さ。そして、今、こうした悲劇が、全国各地で次々と起きている。
行方不明で亡くなった人のうち、59%が自宅から1キロ以内の近い場所で見つかっている。また、水がほとんど流れていないふたが閉まった用水路の中など、通常、人が入り込むとは思わない所で見つかるケースが少なくない。どうしてこうした場所で亡くなっているのか。
福井県敦賀市にある敦賀温泉病院で認知症の人の行動を研究している玉井顯医師は、
「認知症特有の視野の狭さと問題解決能力の低下によって、認知症の人は、思わぬ場所に入り込み、抜け出せなくなる傾向がある。
1キロ以内でなくなるケースが多いのは、私たちにとっては安全でも、認知症の人にとっては危険な場所が自宅近くにあるからではないか。こうしたリスクがあることを認識することが大切だ」と指摘した。
取材からは、通報の“遅れ”が生死に関係している可能性があることも見えてきた。周囲に迷惑をかけたくないなどの理由から、家族が警察への通報や関係者へ助けを求めるのに時間がかかり、結果として、死亡してしまう事態が相次いでいるのだ。