国内

《認知症の行方不明者は年間2万人》高齢者の徘徊「20分探しても見つからなければ110番通報すべき」

認知症又はその疑いによる行方不明者が急増している(写真/イメージマート)

認知症又はその疑いによる行方不明者が急増している(写真/イメージマート)

 認知症またはその疑いによる行方不明者が急増している。高齢化とともに認知症患者が増加しているとはいえ、その届け出の数は警察庁が6月に発表した統計によると、2022年に延べ1万8709人と最多を更新。この10年で約2倍になった。行方不明の届け出がなされてもほとんどが所在を確認されているが、所在不明のままや事故などで死亡した人もいる。なぜこのような悲劇が起こってしまうのか。NHK「認知症・行方不明者1万人」取材班がまとめた『認知症・行方不明者1万人の衝撃 失われた人生・家族の苦悩』(幻冬舎)は、当事者らの厳しい事情を明らかにしている。その一部を抜粋、要約してお届けする。【第3回の第1回】

 * * *
 取材の端緒となったのは、2013年5月30日に、警察庁のホームページに掲載された一つの情報だった。〈平成24年中における行方不明者の状況〉と題された統計情報の中で、行方不明の原因や動機が一覧表で示されていて、そのうち「認知症又は認知症の疑い」とされた人数が、全国で「9607人」、つまり約1万人だったのである。

 認知症は、今や日本人にとって、国民的な病の一つ。全国の認知症の高齢者数は、2012年時点で、推計462万人。物忘れなどの記憶障害はあるものの、まだ認知症を発症していない、いわゆる予備軍とされる軽度認知障害の高齢者も400万人と推計されている。65歳以上の4人に1人が、認知症とその予備軍となる計算だ。

「行方不明」というのは、事件や事故の現場で被害の状況などを示す上で、一般的に使われる言葉だ。私たちのおじいさんやおばあさんに、「事件・事故」とも考えられる重大な事態が、水面下で、次々と起きているのではないか。知られざる実態を明らかにしようと、記者とディレクターで取材班を作り、遺族や認知症の人を介護する家族のもとへ足を運んだ。

 東京・稲城市の住宅街に住んでいた吉澤賢三さんが家から行方不明になったのは、2012年3月26日の午後6時過ぎ。賢三さんは当時76歳。その半年ほど前から、認知症を患っていた。

 9年にわたって連れ添ってきた妻のマユミさんは、賢三さんが家から行方不明になったとき、15分ほど1階の部屋に降りていた。2階のリビングに戻ると夫の姿はなかった。

「慌てて外に飛び出して行きました。いつもは、家を出てすぐ右側の道を歩いていくので、その先を捜せば見つかるのですが、この日は、なぜか、いませんでした。ただ、行方不明になるのは初めてではなく、以前は見つかっていたので、死ぬなんて本当に思いもよりませんでした」

 賢三さんに認知症の症状が出始めたのは、肺炎のために入院していた病院を退院し、体が元気に動くようになってからだった。徘徊の症状は頻繁に出ていて、夕方になると、ほぼ毎日、外出しようとしていたという。

関連キーワード

関連記事

トピックス

若手俳優として活躍していた清水尋也(時事通信フォト)
「もしあのまま制作していたら…」俳優・清水尋也が出演していた「Honda高級車CM」が逮捕前にお蔵入り…企業が明かした“制作中止の理由”《大麻所持で執行猶予付き有罪判決》
NEWSポストセブン
「正しい保守のあり方」「政権の右傾化への憂慮」などについて語った前外相。岩屋毅氏
「高市首相は中国の誤解を解くために説明すべき」「右傾化すれば政権を問わずアラートを出す」前外相・岩屋毅氏がピシャリ《“存立危機事態”発言を中学生記者が直撃》
NEWSポストセブン
3児の母となった加藤あい(43)
3児の母となった加藤あいが語る「母親として強くなってきた」 楽観的に子育てを楽しむ姿勢と「好奇心を大切にしてほしい」の思い
NEWSポストセブン
「戦後80年 戦争と子どもたち」を鑑賞された秋篠宮ご夫妻と佳子さま、悠仁さま(2025年12月26日、時事通信フォト)
《天皇ご一家との違いも》秋篠宮ご一家のモノトーンコーデ ストライプ柄ネクタイ&シルバー系アクセ、佳子さまは黒バッグで引き締め
NEWSポストセブン
過去にも”ストーカー殺人未遂”で逮捕されていた谷本将志容疑者(35)。判決文にはその衝撃の犯行内容が記されていた(共同通信)
神戸ストーカー刺殺“金髪メッシュ男” 谷本将志被告が起訴、「娘がいない日常に慣れることはありません」被害者の両親が明かした“癒えぬ悲しみ”
NEWSポストセブン
ハリウッド進出を果たした水野美紀(時事通信フォト)
《バッキバキに仕上がった肉体》女優・水野美紀(51)が血生臭く殴り合う「母親ファイター」熱演し悲願のハリウッドデビュー、娘を同伴し現場で見せた“母の顔” 
NEWSポストセブン
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《六代目山口組の抗争相手が沈黙を破る》神戸山口組、絆會、池田組が2026年も「強硬姿勢」 警察も警戒再強化へ
NEWSポストセブン
木瀬親方
木瀬親方が弟子の暴力問題の「2階級降格」で理事選への出馬が絶望的に 出羽海一門は候補者調整遅れていたが、元大関・栃東の玉ノ井親方が理事の有力候補に
NEWSポストセブン
和歌山県警(左、時事通信)幹部がソープランド「エンペラー」(右)を無料タカりか
《和歌山県警元幹部がソープ無料タカり》「身長155、バスト85以下の細身さんは余ってませんか?」摘発ちらつかせ執拗にLINE…摘発された経営者が怒りの告発「『いつでもあげられるからね』と脅された」
NEWSポストセブン
結婚を発表した趣里と母親の伊藤蘭
《趣里と三山凌輝の子供にも言及》「アカチャンホンポに行きました…」伊藤蘭がディナーショーで明かした母娘の現在「私たち夫婦もよりしっかり」
NEWSポストセブン
高石あかりを撮り下ろし&インタビュー
『ばけばけ』ヒロイン・高石あかり・撮り下ろし&インタビュー 「2人がどう結ばれ、『うらめしい。けど、すばらしい日々』を歩いていくのか。最後まで見守っていただけたら嬉しいです!」
週刊ポスト
2021年に裁判資料として公開されたアンドルー王子、ヴァージニア・ジュフリー氏の写真(時事通信フォト)
《恐怖のマッサージルームと隠しカメラ》10代少女らが性的虐待にあった“悪魔の館”、寝室の天井に設置されていた小さなカメラ【エプスタイン事件】
NEWSポストセブン