──それでも山口さんの周囲には、働く女性であり、先輩がたくさんいる。その中に「ああ、「この人みたいになれたら」と思う人はいませんか?
山口:最高裁判事も務めた宮崎裕子先生は、さらりとした一言一言がかっこよかったです。彼女が自分の将来設計図について、こう言っていたんです。
「私が仕事について考えるのは、1〜2年単位ですね。あまり長いスパンでは考えません。その時々で面白い仕事があるんですから」
この発言は私にとって響くものがありました。だから自分を求めてくれる人がいるのなら、その都度、100%で応えていきたい。自分から何かをやりたいという気持ちはない。でも今後、その欲が出てくるんじゃないかなと思っています。(了。第1回、第2回を読む)
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全3回に渡ったインタビューで、山口さんはその苦悩を明け透けに話してくれた。とんでもない引き出しの数だった。きっと1週間後に会ったとしても、負けず嫌いの彼女はまた引き出しを増やしているとの想像が容易にできる。
彼女の経歴だけを辿ると「すごい!」「うらやましい!」「うちの子もこう育ってほしい」。そんな感嘆や羨望の声が上がるかもしれない。でも私たちはその表面を見て妄想を膨らませているだけであって、現実は厳しい。ご自身の口からここに放たれたエピソードから、その事実が伝わりますように。(取材・文/小林久乃)
【プロフィール】
山口真由(やまぐち・まゆ)/信州大学特任教授、法学博士。1983年生まれ、北海道札幌市出身。東京大学卒業後、財務省に入省。その後、弁護士事務所に勤務。ハーバード大学留学、米ニューヨーク州弁護士登録、東京大学大学院修了という経歴を持つ。現在は日米の「家族法」を専門とし多様な「家族」を研究するかたわら、テレビ等でコメンテーターとしても活躍している。そんなきらびやかな経歴の裏に隠された赤裸々すぎる挫折エピソードを綴った『挫折からのキャリア論』(日経BP)が好評発売中。
◆撮影/小倉雄一郎