ライフ

今村昌弘氏、新作『でぃすぺる』を語る「ミステリでは怪しげな論理が平然と使われ、その清濁含んだところに面白さもまたある」

今村昌弘氏が新作について語る

今村昌弘氏が新作について語る

 オカルト×ジュブナイル、そして本格ミステリ──。そんな水と油にも思える要素の融合にあえて挑んだのも、「僕らが愛してやまない推理やロジックといったものが、いかに胡散臭く、怪しげな一面を併せ持つか、問い直したかったから」と、このほど『屍人荘の殺人』(2017年)のシリーズ(剣崎比留子シリーズ)以来の新作『でぃすぺる』を上梓した今村昌弘氏(38)は言う。

 主人公の〈木島悠介〉はとある田舎町の小学6年生。夏休みも明けた8月28日、新学期は掲示係に立候補し、壁新聞作りでオカルト趣味を発揮しようと張り切っていた彼は、今一人の立候補者にギョッとする。優等生で誰もが認める学級委員長候補、〈波多野沙月〉だ。

 実は1年前、深夜の運動公園で不可解な死を遂げた従姉〈マリ姉〉のPCの中に〈奥郷町の七不思議〉と題したファイルを見つけた彼女は、マリ姉の死の謎を解く鍵はその中にあると思い、悠介に接近したらしい。さらに転校生〈畑美奈〉も加わり、性格も特技も異なる3人組は、大人達や警察ですら解き得なかった町の謎に挑むこととなる。

「僕は本格ミステリという論理を核にした作品で世に出していただいた上に、大の怪談好きでもあるので、例えばオカルトの存在が事件に関わるとしたら、どう論理的に説明できるかを延々考えては成果の出ない日々を過ごしてきました。

 そのうちに、そういえば僕らが何気なく読んでいる物語の中の探偵も結構キワドイ論理を使うよなあと思ったんです。苦しい部分は探偵のトーク力で誤魔化したり、キャラクターの力で納得感を生み出したり(笑)。それならば、ミステリの文脈の中にオカルトを取り込めないだろうかと考えたんです。それは自分がこれまで書いてきた本格ミステリへの挑戦でもありました」

 表題のDispelとは、追い払う、駆逐するといった意。

「僕自身、今回は子供達が何かモヤモヤした良くないものを突破する、明るめの話が書きたかったんですね。ゾンビとか殺人トリックを散々書いてきた反動か(笑)。

 それで思ったんですけど、子供って悪人ではないけど、自分の町のこととか友達の家庭の事情とか、見えていないものがたくさんあって、しかも当人は特に気づかないまま楽しく生きている。そのことに彼らが少しずつ気づいていく話にしたくて、この七不思議という町限定の謎を絡めてみたんです。

 つまり七不思議と、依然未解決なマリ姉の刺殺事件、そして大人に対する不信や疑念や町の歴史についても並行的に書きながら、かたやオカルト好きな小6男子、かたや現実思考の優等生が、審判役の美奈の下で推理を戦わせたら、絶対面白いと。と思ったのはいいものの、怪談1つに推理が最低でもオカルト派と現実派で2つ。しかも否定する側の論理も要るから、6×3とか4?普通は謎も推理も2つか3つでいいのに、とにかく燃費の悪い話でした(笑)」

 マリ姉が〈七つ目の不思議を知ったら死ぬ〉と警告共々記したのは、〈Sトンネルの同乗者、永遠の命研究所、三笹峠の首あり地蔵、自殺ダムの子ども、山姥村、井戸の家〉の6つ。沙月は悠介なら7つ目もわかると期待したらしいが、〈木島は絶対知らない〉〈だって生きてるもん〉と美奈も言うように、まるで見当がつかず、まずは第1の現場・Sトンネルを訪ねてみることから、ユースケ、サツキ、ミナと呼び合うことにした3人は謎解きを始めるのだった。

関連記事

トピックス

(EPA=時事)
《2025の秋篠宮家・佳子さまは“ビジュ重視”》「クッキリ服」「寝顔騒動」…SNSの中心にいつづけた1年間 紀子さまが望む「彼女らしい生き方」とは
NEWSポストセブン
イギリス出身のお騒がせ女性インフルエンサーであるボニー・ブルー(AFP=時事)
《大胆オフショルの金髪美女が小瓶に唾液をたらり…》世界的お騒がせインフルエンサー(26)が来日する可能性は? ついに編み出した“遠隔ファンサ”の手法
NEWSポストセブン
初公判は9月9日に大阪地裁で開かれた
「全裸で浴槽の中にしゃがみ…」「拒否ったら鼻の骨を折ります」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が明かした“エグい暴行”「警察が『今しかないよ』と言ってくれて…」
NEWSポストセブン
指名手配中の八田與一容疑者(提供:大分県警)
《ひき逃げ手配犯・八田與一の母を直撃》「警察にはもう話したので…」“アクセルベタ踏み”で2人死傷から3年半、“女手ひとつで一生懸命育てた実母”が記者に語ったこと
NEWSポストセブン
初公判では、証拠取調べにおいて、弁護人はその大半の証拠の取調べに対し不同意としている
《交際相手の乳首と左薬指を切断》「切っても再生するから」「生活保護受けろ」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が語った“おぞましいほどの恐怖支配”と交際の実態
NEWSポストセブン
国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白(左/時事通信フォト)
「あなたは日テレに捨てられたんだよっ!」国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白「今の状態で戻っても…」「スパッと見切りを」
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン
小説「ロリータ」からの引用か(Aでメイン、民主党資料より)
《女性たちの胸元、足、腰に書き込まれた文字の不気味…》10代少女らが被害を受けた闇深い人身売買事件で写真公開 米・心理学者が分析する“嫌悪される理由”とは
NEWSポストセブン
国宝級イケメンとして女性ファンが多い八木(本人のInstagramより)
「国宝級イケメン」FANTASTICS・八木勇征(28)が“韓国系カリスマギャル”と破局していた 原因となった“価値感の違い”
NEWSポストセブン
今回公開された資料には若い女性と見られる人物がクリントン氏の肩に手を回している写真などが含まれていた
「君は年を取りすぎている」「マッサージの仕事名目で…」当時16歳の性的虐待の被害者女性が訴え “エプスタインファイル”公開で見える人身売買事件のリアル
NEWSポストセブン
タレントでプロレスラーの上原わかな
「この体型ってプロレス的にはプラスなのかな?」ウエスト58センチ、太もも59センチの上原わかながムチムチボディを肯定できるようになった理由【2023年リングデビュー】
NEWSポストセブン