「こういうのなんていうんでしたっけ。ノンフィクションとフィクションの間みたいなもの。プライバシーの問題があるので個人の設定などかなり変えたところもありますし、いろいろ手を加えたりもしてますけど、基本は現実の話にもとづいたものです」
ちなみにこの本で恋愛を語っている12人がすべて女性なのは「男性の恋愛話はあまり面白くない」と唯川さんが思っているかららしい。
「恋愛に関して、女性は自分の目線しかないのに比べて、男性の目線はどうしても世間を通したものになる。そういう意味で通り一遍のことしか言えない気がしますね。
恋愛のことを隠したい気持ちも男性のほうが強いかもしれない。女性が自分の恋愛を話したい、という気持ちが強いのは肯定感がほしいのかな、とも思います。友だちに話すと、うんうん、わかるわかる、と本心でなくても言ってもらえるから。安心したいのは、自分の恋愛にあまり自信がないのかもしれないけど」
副題の「恋愛の落とし前」は、この本の重要なテーマである。
「『落とし前』は、この本のキーワードのひとつだと最初から思っていました。落とし前をつけた人もいる、つけられなかった人もいる。本人はつけたと言うけど、それは落とし前じゃない、と思うものもありました。落とし前っていうのはひとつの区切りで、その先も人生は続くんですが、大人はやっぱり、どこかでつけていかないといけないんですよね」
唯川さんといえば「恋愛小説」と言われてきたが、数年前から恋愛小説と距離を置いた。
今回、久しぶりに恋愛をテーマに本を書こうと思ったのには、どういう気持ちの変化があったのだろう。
「恋愛小説を、もういいかな、と思ったのは、自分の年齢的なこともありました。恋愛に対する情熱を文字にすることがちょっとしんどいな、という気持ちで、もう恋愛について書くことはないだろう、と思っていたんですけど、長いつきあいの編集者から、『いろんな人の話を聞くと面白いですよ』って、うまく興味を持たせてくれて。こんな形で本が出るなんて、私自身、考えたこともなかったですね」