芸能

【日本デビューから半世紀】アグネス・チャンが振り返るアイドル時代「単語の意味が分からず歌っていたんです」

トレードマークのミニスカートやハイソックスなど、当時の衣装はほとんどが自前。クリーニングに出す時間がなく、自分で洗濯することもたびたびだった

トレードマークのミニスカートやハイソックスなど、当時の衣装はほとんどが自前。クリーニングに出す時間がなく、自分で洗濯することもたびたびだった

“香港から来た妖精”が日本に舞い降りたのは、1972年11月、17歳の時だった──。1971年に香港でデビュー、テレビの冠番組を持つなど、すでにトップスターだったアグネス・チャンは、日本の芸能事務所のスカウトに応じる形で日本の地を踏んだ。

「日本は憧れの国でした。1970年の大阪万博で展示された『月の石』は香港でも話題で、初来日の時に食べたビッグマックは『世の中にこれ以上贅沢な味はない』と感激しました。不安より憧れの国で働ける喜びが大きかったです」

 デビュー曲『ひなげしの花』は32万枚の大ヒットを記録。拙さが入り混じったイントネーションやマイクに両手を添えて歌う可憐な姿に誰もが魅了され、“アグネス・フィーバー”が日本を席巻した。

「当時、日本語はまったくといっていいほど理解していませんでした。歌詞の内容を教えてもらっても、単語の意味が分からず歌っていたんです」

 学校に通いながらの芸能活動は分刻みだった。出番を待つテレビ局の廊下にストロボがずらりと並び、アイドル誌の撮影が行なわれることも珍しくはなかった。

「学校から直接テレビの生放送に出演して、合間に雑誌の取材、その後夜中までレコーディングがあって、寝るのはせいぜい2、3時間。タクシー移動の15分も貪るように寝ていました(笑)」

 あれから半世紀余。今も日本と香港を行き来し、コンサート、講演に忙しい毎日を送っている。

「たくさんのファンに支えられたことは、小さな奇跡の積み重ねの結果でした。50年も歌手活動を続けることができたなんて、今も信じられません。感謝を忘れず、一日一日を懸命に生きることが恩返しだと思っています」

【プロフィール】
アグネス・チャン/1955年生まれ、香港出身。1972年『ひなげしの花』で歌手デビューしてトップアイドルに。現在も歌手活動の傍ら、ユニセフ・アジア親善大使などを務める。2021年にデビュー50周年記念アルバム『カナダより愛をこめて』、2023年9月に新著『心に響いた人生50の言葉』(かもがわ出版)が発売。

取材・文/小野雅彦

※週刊ポスト2023年12月1日号

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