待望の新作映画『首』はカンヌ国際映画祭に出品

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伊集院さんとの出会いは「草野球」

 これは食事にも同じことが言えるよ。「ファストフード」なんて言葉が定着して、どこにでもハンバーガー屋や牛丼屋ができたことで、「安くて早い」ことが美徳だと考える人が増えた。浅草の旨いうなぎ屋に行けば、注文を受けてから捌き始めるから30〜40分は平気でかかる。だけど、タレの香りをアテにチビチビ酒を飲んだり、そういう「待つ時間」も含めて贅沢なんだよ。

 そして時間をかけて高いコース料理に行くのは、一緒にいる人との「会話」を楽しむということでもある。まァ、最近は他人とのコミュニケーション自体を煩わしく思うのかもしれないけどね。とにかく、あらゆることが簡素化されちまってる。人間の懐の深さや個性は表面的なことしか経験していないといつまでも成長しない。このままだとみんな似たようなヤツになっちまうぜ。

 その点、ムダを愉しむ生き方を貫いたのが、亡くなった作家の伊集院静さんだ。

 伊集院さんは阿佐田哲也さんみたいに、作家として一流になってもどこか“野垂れ死に”みたいな人生に憧れていた節があった。最後まで偉ぶることのない、人の機微をよく理解した人だった。

 オイラが伊集院さんと初めて会ったのは、彼がまだ電通に入る前の若い頃でさ。人づてに知りあって一緒によく「草野球」をしていたんだよ。軟式だったけど、立教の野球部出身だけあって上手かった。よく覚えてるのが、相手にホームランを打たれた時のことだ。

 普通は悔しがったり、怒りっぽくなったりするだろ。それが伊集院さんはボールを追うように青空を眺めながら、「アイツ(打った人)は楽しいだろうなぁ」って優しい顔で呟いたんだ。まったく悔しがらないんだよ。第三者的というか、達観した感じがしたんだ。

 そんな姿が、なんとも言えず格好良くてさ。彼の周りだけ時間がゆっくりと流れていて、その瞬間「この人はモテるだろうな」と思ったんだよね。その後、マッチ(近藤真彦)の曲をやった時に「あの草野球の人か」と気づいて再会したんだけどさ。そんな経緯があったから、夏目雅子と結婚した時もオイラは別に驚かなかったよ。

 それからは長年の友人になった。伊集院さんは知識人であることをひけらかさないけど、それでいてギャンブル好きなのに下品じゃない。“高尚な浪人”とでも言うのか、「品」がある人だった。一緒に酒を飲んでいても、ゴルフをしていても「いい雰囲気」を持っていて決して焦ったりしない。オイラより年下だけど、尊敬できる男だった。

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