芸能

博役・前田吟が語る『男はつらいよ』シリーズの魅力 「愛されるのは、幸せな嘘を描いているから」

1作目公開から55年が経っても多くの人に愛される『男はつらいよ』(時事通信フォト)

1作目公開から55年が経っても多くの人に愛される『男はつらいよ』(時事通信フォト)

 年末年始になると映画『男はつらいよ』シリーズを思い起こすという人も多いだろう。1969年公開の第1作で主人公である「フーテンの寅」こと車寅次郎の妹、さくらに恋する青年として登場し寅さんに仲をとりもってもらい結婚した諏訪博を演じた前田吟が、第50作『お帰り 寅さん』(2019年)撮影時の思い出を振り返った。

 * * *
 もう1作目公開から55年になりますか。当時の私は25歳。当初は1作だけで、シリーズ化の話などまったくありませんでした。ところが、邦画が低迷して映画館はガラガラという時代だったにもかかわらず、観客動員数50万人以上の大ヒットになった。私も映画館に足を運び、満席を目の当たりにして驚きました。この大成功で続編が決まったというわけです。

 2019年公開の『お帰り 寅さん』は、最後の撮影から23年が経過しています。不思議なもので、あの茶の間に座ると前回の撮影が昨日のことのように感じるのです。ウソみたいに聞こえるかもしれないけどね(笑)。

 山田洋次監督は徹底してリアリティにこだわる監督です。私の演じた博は印刷会社の従業員。髪型から衣装に至るまで労働者の香りがしないとOKが出ません。翌日の撮影で着る衣装で電車に乗って帰ることもしばしばでした。衣装を自分に馴染ませるためです。そうしなければ、不自然に映ってしまうんです。

『男はつらいよ』が愛されるのは“幸せな嘘”が描かれているからだと思います。寒空を腹巻き一枚で雪駄で歩く寅さん自体が虚構の人物(笑)。寅さんが帰ってきて、あっという間に一家の中心になる。気がつくとタコ社長も含めた一家団欒。今の時代にあんな光景は見られませんから“幸せな嘘”ですよ。

 でも、不思議と、あの茶の間に故郷を感じるんですね。肩肘張らず、家族で見られる物語。私には世に出るきっかけになった作品でもあり、最後まで出演できたことは、一俳優としてとても誇らしく思います。

【プロフィール】
前田吟(まえだ・ぎん)/1944年生まれ、山口県出身。1964年俳優デビュー。NHK大河ドラマ『竜馬がゆく』(1968年)、映画『家族』(1970年)など多数出演。代表作は『渡る世間は鬼ばかり』シリーズ(1990年~)。2019年からバラエティ番組の司会者としても活躍。

※週刊ポスト2024年1月1・5日号

関連記事

トピックス

球種構成に明らかな変化が(時事通信フォト)
大谷翔平の前半戦の投球「直球が6割超」で見えた“最強の進化”、しかしメジャーでは“フォーシームが決め球”の選手はおらず、組み立てを試行錯誤している段階か
週刊ポスト
参議院選挙に向けてある動きが起こっている(時事通信フォト)
《“参政党ブーム”で割れる歌舞伎町》「俺は彼らに賭けますよ」(ホスト)vs.「トー横の希望と参政党は真逆の存在」(トー横キッズ)取材で見えた若者のリアルな政治意識とは
NEWSポストセブン
ベビーシッターに加えてチャイルドマインダーの資格も取得(横澤夏子公式インスタグラムより)
芸人・横澤夏子の「婚活」で学んだ“ママの人間関係構築術”「スーパー&パークを話のタネに」「LINE IDは減るもんじゃない」
NEWSポストセブン
LINEヤフー現役社員の木村絵里子さん
LINEヤフー現役社員がグラビア挑戦で美しいカラダを披露「上司や同僚も応援してくれています」
NEWSポストセブン
モンゴル滞在を終えて帰国された雅子さま(撮影/JMPA)
雅子さま、戦後80年の“かつてないほどの公務の連続”で体調は極限に近い状態か 夏の3度の静養に愛子さまが同行、スケジュールは美智子さまへの配慮も 
女性セブン
場所前には苦悩も明かしていた新横綱・大の里
新横綱・大の里、場所前に明かしていた苦悩と覚悟 苦手の名古屋場所は「唯一無二の横綱」への起点場所となるか
週刊ポスト
医療的ケア児の娘を殺害した母親の公判が行われた(左はイメージ/Getty、右は福岡地裁)
24時間介護が必要な「医療的ケア児の娘」を殺害…無理心中を計った母親の“心の線”を切った「夫の何気ない言葉」【判決・執行猶予付き懲役3年】
NEWSポストセブン
近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
渡邊渚さんが綴る自身の「健康状態」の変化 PTSD発症から2年が経ち「生きることを選択できるようになってきた」
NEWSポストセブン
昨年12月23日、福島県喜多方市の山間部にある民家にクマが出現した(写真はイメージです)
《またもクレーム殺到》「クマを殺すな」「クマがいる土地に人間が住んでるんだ!」ヒグマ駆除後に北海道の役場に電話相次ぐ…猟友会は「ヒグマの肉食化が進んでいる」と警鐘
NEWSポストセブン
レッドカーペットを彩った真美子さんのピアス(時事通信)
《価格は6万9300円》真美子さんがレッドカーペットで披露した“個性的なピアス”はLAデザイナーのハンドメイド品! セレクトショップ店員が驚きの声「どこで見つけてくれたのか…」【大谷翔平と手繋ぎ登壇】
NEWSポストセブン
竹内朋香さん(左)と山下市郎容疑者(左写真は飲食店紹介サイトより。現在は削除済み)
《浜松ガールズバー殺人》被害者・竹内朋香さん(27)の夫の慟哭「妻はとばっちりを受けただけ」「常連の客に自分の家族が殺されるなんて思うかよ」
週刊ポスト
真美子さん着用のピアスを製作したジュエリー工房の経営者が語った「驚きと喜び」
《真美子さん着用で話題》“個性的なピアス”を手がけたLAデザイナーの共同経営者が語った“驚きと興奮”「子どもの頃からドジャースファンで…」【大谷翔平と手繋ぎでレッドカーペット】
NEWSポストセブン