だからこそ、「手遅れ」と言われる状況になるまで、がんが発覚しないケースが多いのだとも言えます。それこそ、がんという病気の特徴です。言い換えれば、がんが見つかったからといって治療しなくても、最後の数か月を除けば、それまで通りの生活ができる、ということでもあります。
私が以前勤めていた老年医療専門の浴風会病院(東京・杉並)では年間100例ほど解剖していましたが、85歳を過ぎて亡くなった人の体内に、「がんがない人」は1人もいませんでした。しかし、そのうち死因ががんの人は3分の1で、残りの3分の2は別の理由で亡くなられており、生前はがんの症状は出ていませんでした。まさに“知らぬが仏”ではないでしょうか。
また、多くの人が受けるがん検診は、あくまで「早期発見のため」であって、「がん予防のため」ではありません。もう一歩踏み込んで言えば、多くの人は「がんではないことを確かめる」ために受けているのではないでしょうか。だからこそ、検診でがんの疑いが指摘されたときには動揺したり、パニックになったりするわけです(検診を受けなければ、がんがあっても知らないで済みます)。
しかし本来、早期発見が目的ならば、見つかったときに「どう行動するか」を考えておかなければいけません。慌てた結果、たまたま受診した病院で治療を受けることになりがちです。それが意に沿わない治療方針だったとしても、主治医となった医師の言いなりにならざるを得ず、心身ともに疲弊するという人も少なくありません。
少なくとも、がん検診でがんが早期発見されたら、そのがんについて、どの病院でどんな治療を実践しており、どれだけの治療実績があるかなどを調べられるだけ調べるべきです。受診し、確定診断を受けた後は、事前に調べた情報を元に、自分自身がどんな治療を受けたいかを考えるべきなのです。
たとえば、がんの手術といっても、患者の負担やリスクが大きい従来の外科手術ではなく、最小限のメスしか入れない腹腔鏡下での手術を積極的に行っている病院は数多くあります。放射線治療でも、がん細胞をピンポイントで狙うような最先端の治療を実施している病院がどこにあるかなどは、インターネットを使えば簡単に調べることができます。
日本のがん医療の問題点
そうしたなか、私が考える日本のがん治療の決定的な欠点は、手術の際、がん細胞の周りの臓器ごと、簡単に切除しすぎることです。例えば、それほど転移のリスクがない胃がんなら、がんだけ切除すればいいのに、「念のため」に胃を3分の2も切除したりする。そんなことをするから、がんは取れても以後の人生では慢性的な栄養不足に陥る人が多いのです。
がん治療の結果、栄養不足になれば全身の健康状態は悪くなるし、寿命を縮めることにもなりかねません。