いわばがんの「過剰医療」「過剰診断」によって、患者のQOLが下がるケースは少なくありません。手術後もそれまで通りの生活を望むなら、がん以外は切除しないでほしいといった要望を、事前に医師に伝えることが必要です。
そうした要望を伝えたとしても、医師は「しっかり切らないと転移するリスクがある」と言ってくるかもしれません。しかし、もし転移するがんなら、その大きさになるまで数年から10数年かかっているため、手術の時点で転移している可能性が高いはずです。がん細胞のある臓器を大きく切っても、転移の予防にはならずに、QOLをいたずらに下げることになりかねません。
かつて日本中で物議を醸した故・近藤誠先生の「がん放置療法」の理論は、転移しないがんなら放置していても命に影響はないし、もし転移するがんなのだとしたら、発見された時点で小さながんが身体中に転移していることになり、それらを全て見つけて治療することはできない。つまり、がんを治療する意味はない、というものです。
その真偽を判断することは私にはできませんが、近藤理論が正しいものである可能性はあるのではないかと思っています。だから、もし私ががんになったら、最小限の手術でがんを切除してもらうか、何も治療せず、医学の進歩により体に負担のない治療法が開発されるのを待つつもりです。(了)
【プロフィール】
和田秀樹(わだ・ひでき)/1960年大阪府生まれ。東京大学医学部卒。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、立命館大学生命科学部特任教授、和田秀樹 こころと体のクリニック院長。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。『80歳の壁』は2022年の年間ベストセラー総合第1位(トーハン・日販調べ)に。