騎手としての「レース経験」が技術を伸ばす
デビューした時は横一線だったのに、何年かたつと大きな差が付いてしまうのはなぜか──。
騎乗依頼する側は、馬主さんはもちろん、調教師でも、当然のようにいい馬ほど勝てるジョッキーに乗ってもらいたい。ジョッキーのタイプによって、この馬は合いそうだということもあるかもしれませんが、それよりも「勝ち方」を知っているジョッキーに依頼したいものです。そうして騎乗数が増えれば、ジョッキーはレースの中で新たな経験を積み重ねて、自分の技術を磨いていきます。技術を伸ばすのは、とにかくレース経験を積むことしかないんです。
極端な言い方をすれば、1つチャンスをモノにしたジョッキーにはすぐに何件も次の騎乗依頼が来ます。そして、うまく期待に応えられれば、また何件もの騎乗依頼が来る。
一方、せっかくもらったチャンスだったのに、上手く乗れなかったジョッキーには、新たな騎乗依頼は来ません。それどころか、これまで乗っていた馬からも、降ろされてしまうことがある。しかも、それはもしかしたらそのジョッキーのミスや仕掛けの間違いだけではないかもしれない。それでも、1回の騎乗を活かせるかどうかで、一気に何倍もの差がついてしまい、その差はどんどん開いてしまうというわけです。
チャンスが平等にあるとは言わないけれど、いかにモノにして信頼を得ていくか。人はみな勝った方に流れていくわけで、勝った方はプラス1ではなく、プラス5にもプラス10にもなる。そうして相乗効果でどんどん騎乗数も勝利数も増えていくけれど、勝てなかった方はどんどん悪循環に陥っていく。
もちろんたった1回のミスでどん底に落とされてしまうことはないでしょうが、2回3回とチャンスをモノにできないでいると評価が固定されてしまう。
そして一度ついた評価を変えるのはなかなか大変なことです。
「あのジョッキー、騎乗数は少ないけれど実は上手い」という噂があっても、結果が出ていないとなかなか広まらない。それに対して「一歩仕掛けが遅い」とか「ちょっと勝負弱い」というような悪い評価は、すぐに広がるんです。
だからこそ、ジョッキーは騎乗依頼が来てから準備をするのではなく、常日頃から準備をしていないとダメなのです。