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エコノミークラス症候群で命を落とすのは女性たち

 女性8363人、男性7360人。これは未曽有の広域災害をもたらした東日本大震災の犠牲者の数だ。女性が男性を1000人以上も上回っているが、そうした“ジェンダー格差”はほかの災害でも生じており、2004年のスマトラ沖地震では女性の死者数が男性の3倍にものぼったという。

 女性は震災の発生時に在宅率が高く、育児や介護をしていて逃げ遅れてしまう犠牲者が多いこと、男性と比べて小柄で体力もなく、避難がスムーズにいかないことなどが理由として分析されているが、それ以上に注目すべきが避難生活で重篤な状態に陥るリスクだ。

「新潟県中越地震と熊本地震の後、避難生活によるエコノミークラス症候群で命を落としたのは女性だけでした」と語るのは、新潟大学医歯学総合研究科特任教授の榛沢和彦さんだ。

 エコノミークラス症候群とは長時間同じ姿勢で狭い場所にいることで足の血行が悪くなり、血栓ができやすくなる状態を指す。充分な水分と栄養素の補給ができないことやトイレの回数が減り、血液の循環が悪くなることもトリガーとなるため、避難生活中は発症率が高まるとされている。

 心臓血管外科が専門で、長年災害後の避難生活についての調査を行っている榛沢さんによると、2004年の新潟県中越地震では車中泊していた被災者のうち14人がエコノミークラス症候群で救急搬送され、そのうち7人が、血栓が肺に詰まる肺塞栓を発症し、死亡した。搬送された14人はいずれも女性で、死亡した7人中6人が40〜50代だったという。 2016年の熊本地震においても、エコノミークラス症候群で入院が必要な状態と診断された52人のうち40人が女性だった。

 なぜ、女性だけが命の危機にさらされるのか。

「いちばんの原因は女性が自分のケアを“後回し”にせざるを得ない状況に置かれていること。

 実際、避難所では子供や高齢の両親のために配給の列にひとりで並ぶ女性の姿を目にすることは非常に多いです。食料を調達して食べさせ、トイレの世話をして……と家族の面倒をみることを優先した結果、どうしても自分の食事や水分補給は二の次になり、トイレの回数も少なくなる。エコノミークラス症候群の発症率が上がるのは必然といえます」(榛沢さん)

“ケア労働”に加え、避難生活における排泄環境の劣悪さも拍車をかける。

 安心・防災プランナーで、東日本大震災で2週間の避難所生活を経験した柳原志保さんは「被災したとき、いちばん困ったのはトイレの問題でした」と振り返る。

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