ライフ

早見和真氏、高校野球家族小説『アルプス席の母』インタビュー 「世間が押し付ける枠組みの無意味さを伝え、諦めないことの先にある何かを提示したい」

早見和真氏が新作について語る

早見和真氏が新作について語る

 やればできる……のか? 夢は諦めさえしなければいつかは叶う……のか? そんな鵜呑みにするのも全否定するのも何か違う気がする熱さや文言を、早見和真氏・著『アルプス席の母』は、当の球児ではなく母親達の「憧れと屈託」を通じて問い直す、他に類のない高校野球家族小説だ。

 夫を事故で亡くし、今は西湘シニアのエースで中3の〈航太郎〉と神奈川県で暮らす〈秋山菜々子〉は、息子の進路に心揺れていた。

 航太郎は小1の夏、地元京浜高校を決勝戦で下した大阪府代表の甲子園常連校〈山藤学園〉の強さに感激し、〈俺、絶対に山藤で野球する!〉と夫に約束。以来、山藤に進んで甲子園に行くことが息子の目標になった。

 が、山藤から声がかかることは結局なく、航太郎は県内の高校からの誘いを断わり、大阪の新興高校〈希望学園〉で野球部の寮に入って甲子園を目指すことに。その選択は、自身も生活の拠点を大阪へと移すことを決意した菜々子にとって、二度と息子と一緒に暮らせないかもしれないという可能性を意味していた。

『あの夏の正解』という、著者が2020年夏、コロナ禍に甲子園出場の夢そのものを奪われた3年生ら、計20名以上に密着した名著がある。自身も桐蔭学園出身で、最後の1995年春センバツでもベンチ入りを果たせなかった早見氏は、甲子園に愛と憎とを抱えてきたという。

「僕は『ひゃくはち』という高校野球の小説でデビューさせてもらって、その後に伊豆に移住して『イノセント・デイズ』までを書き、そこからまた愛媛に移って『八月の母』までを書いた。つまり今作は13年ぶりの東京に戻って書いた最初の作品で、リスタートは高校野球の話で始めたかったし、自分がその世代の親になったことで新しい視点を見つけられた感触もあった。

 ただ高校野球特有の歪な慣習とか文化を、父親ってわりと肯定しがちなんですよね。監督は絶対だとか。その理不尽さに疑問は感じつつ、何とか日々もがいているのはむしろ母親の方で、つまり物語が入り込む余地があるのは断然母親だっていう、確信がありました」(早見氏、以下「」内同)

関連記事

トピックス

詐称疑惑の渦中にある静岡県伊東市の田久保眞紀市長(左/Xより)
【伊東市・田久保市長が学歴詐称疑惑に “抗戦のかまえ” 】〈お遊びで卒業証書を作ってやった〉新たな告発を受け「除籍に関する事項を正式に調べる」
NEWSポストセブン
違法薬物を所持したとして不動産投資会社「レーサム」の創業者で元会長の田中剛容疑者が逮捕された
《不動産投資会社レーサム元会長・注目の裁判始まる》違法薬物使用は「大きなストレスで…」と反省も女性に対する不同意性交致傷容疑は「やっていない」
NEWSポストセブン
女優・福田沙紀さんにデビューから現在のワークスタイルについてインタビュー
《いじめっ子役演じてブログに“私”を責める書き込み》女優・福田沙紀が明かしたトラウマ、誹謗中傷に強がった過去も「16歳の私は受け止められなかった」
NEWSポストセブン
告示日前、安野貴博氏(左)と峰島侑也氏(右)が新宿駅前で実施した街頭演説(2025年6月写真撮影:小川裕夫)
《たった一言で会場の空気を一変》「チームみらい」の躍進を支えた安野貴博氏の妻 演説会では会場後方から急にマイクを握り「チームみらいの欠点は…」
NEWSポストセブン
中国の人気芸能人、張芸洋被告の死刑が執行された(weibo/baidu)
《中国の人気芸能人(34)の死刑が執行されていた》16歳の恋人を殺害…7か月後に死刑が判明するも出演映画が公開されていた 「ダブルスタンダードでは?」の声も
NEWSポストセブン
13日目に会場を訪れた大村さん
名古屋場所の溜席に93歳、大村崑さんが再び 大の里の苦戦に「気の毒なのは懸賞金の数」と目の前の光景を語る 土俵下まで突き飛ばされた新横綱がすぐ側に迫る一幕も
NEWSポストセブン
学歴を偽った疑いがあると指摘されていた静岡県伊東市の田久保真紀市長(右・時事通信フォト)
「言いふらしている方は1人、見当がついています」田久保真紀氏が語った証書問題「チラ見せとは思わない」 再選挙にも意欲《伊東市長・学歴詐称疑惑》
NEWSポストセブン
参院選の東京選挙区で初当選した新人のさや氏、夫の音楽家・塩入俊哉氏(時事通信フォト、YouTubeより)
「結婚前から領収書に同じマンション名が…」「今でいう匂わせ」参政党・さや氏と年上音楽家夫の“蜜月”と “熱烈プロデュース”《地元ライブハウス関係者が証言》
NEWSポストセブン
学歴を偽った疑いがあると指摘されていた静岡県伊東市の田久保真紀市長(共同通信/HPより)
《伊東市・田久保市長が独占告白1時間》「金庫で厳重保管。記録も写メもない」「ただのゴシップネタ」本人が語る“卒業証書”提出拒否の理由
NEWSポストセブン
7月6~13日にモンゴルを訪問された天皇皇后両陛下(時事通信フォト)
《国会議員がそこに立っちゃダメだろ》天皇皇后両陛下「モンゴルご訪問」渦中に河野太郎氏があり得ない行動を連発 雅子さまに向けてフラッシュライトも
NEWSポストセブン
参院選の東京選挙区で初当選した新人のさや氏、経世論研究所の三橋貴明所長(時事通信フォト)
参政党・さや氏が“メガネ”でアピールする経済評論家への“信頼”「さやさんは見目麗しいけど、頭の中が『三橋貴明』だからね!」《三橋氏は抗議デモ女性に体当たりも》
NEWSポストセブン
かりゆしウェアをお召しになる愛子さま(2025年7月、栃木県・那須郡。撮影/JMPA) 
《那須ご静養で再び》愛子さま、ブルーのかりゆしワンピースで見せた透明感 沖縄でお召しになった時との共通点 
NEWSポストセブン