耐震補強は“努力義務”
阪神・淡路大震災以降、旧耐震基準のビルの耐震補強を促すために「耐震改修促進法」が制定された。その後の改正で震災時に避難や輸送などの大動脈となる「緊急輸送道路」に面した一定の大きさの建物などについて、耐震診断の実施を義務化。東京都では2018年より耐震診断結果を公表している。
一般財団法人耐震総合研究所代表理事の別宮昌也氏が言う。
「都が運営する『東京都耐震ポータルサイト』から、旧耐震基準のビルの耐震診断結果を区ごとに確認できます。評価はI~IIIに分類され、Iは『震度6強以上の地震が起こると倒壊する可能性が高い』と判断されたビルになります」
評価Iのビルが多いエリアはどこか。都が公表する「耐震診断が義務付けられている建築物の耐震診断結果」の東京23区のデータを見ていくと、耐震診断を受けた建物のうちI評価のビルの数の割合が最も高かったのは豊島区で、108棟のうち40棟(約37%)が該当した。2位は渋谷区で89棟のうち30棟(約34%)がI評価だった。
エリアを細かく見ていくと、東池袋1丁目から5丁目の春日通り沿いに18棟、渋谷区渋谷2丁目から3丁目の青山通りと六本木通り沿いのエリアに9棟、大地震で倒壊の恐れがあるI評価のビルが集中していた。
「池袋や渋谷などの繁華街に近い場所に建つ古いビルは、利便性がよいのに賃料が割安なため入居者や店舗がなかなか転居・移転をせず、ビルのオーナーも耐震診断をしても耐震補強や建て替えをしないことが多い。都心で再開発が進む一方、“開発に取り残された危険な雑居ビル”が少なくありません」(別宮氏)
耐震診断は義務化されたものの、実際の耐震補強は「努力義務」にとどまる制度になっている。そのため、補強・改修がなかなか進まない。
さらに、「耐震診断結果が不明のエリアこそリスクが高い」と前出・楠教授は指摘する。
「耐震診断が義務の緊急輸送道路沿いから1本裏に入った通りになると、倒壊リスクのあるビルがどれだけあるのかも把握できていません。銀座の目抜き通りから1本入った裏通り、新橋、新宿歌舞伎町などの繁華街には診断すら受けていない古いビルが点在すると考えられます。そうしたエリアこそ注意が必要です」
地震大国の首都に迫るビルの連鎖倒壊危機。抜本的な対策が必要になっている。
※週刊ポスト2024年4月26日号