同論文ではCa拮抗薬を服用中で、かつ緑内障の症状が進行している場合、別の降圧剤への切り替えを検討するよう勧めている。引地医師が言う。

「循環器と眼科の医師はあまり接点がないため、Ca拮抗薬の服用と緑内障の進行が同時並行で起きても、医師側が気づかない可能性は高い。その状況に該当する場合、患者側からすぐに主治医に相談してください」

 ただし、英国血圧協会の傘下団体が同論文についてメディアの取材に「これまでのところCa拮抗薬の使用が緑内障の上昇に直接関与しているという証拠はないことを強調すべきだ」と指摘している点には留意したい。

 近年、特定のタイプの降圧剤がもたらす重病リスクは、ほかにも指摘されている。

 昨年12月には、米国テキサス大の研究者らが過去の研究結果を改めて長期追跡し、Ca拮抗薬、サイアザイド系利尿薬、ACE阻害薬の「心血管リスク」についてまとめた論文を医学誌に発表した。渡辺医師が解説する。

「同論文のベースは、3万人超の高血圧患者を服用する降圧剤で3種類に分け、それぞれの薬の心筋梗塞や脳卒中の発症リスクを比較した1990年代の研究です。2002年に発表された検証結果では、当時新薬だったACE阻害薬の脳卒中リスクがほかの薬より高く出ていました。

 今回はその研究をもとに、さらに長期の影響を2次解析。最長23年も長期追跡した結果、ACE阻害薬は利尿薬と比較して脳卒中の死亡リスクが19%、入院リスクが11%増加しており、何らかの影響を及ぼしている可能性が指摘されています」

 こちらも論文内で明確な因果関係は明らかにされていない。薬剤師の長澤育弘氏はこう推察する。

「ACE阻害薬で脳卒中のリスクが高かった理由として、副作用の高カリウム血症が重症化して不整脈を起こし、心房細動によって血栓ができて脳卒中が起こりやすくなった可能性が考えられます」

 重要なのは、どんな薬にも期待される効果とリスクが両面あるという認識を持つことだ。

「種類が豊富な降圧剤は人によって合う、合わないがあるので自らの体調を鑑みて違和感があればすぐに医師に相談しましょう。数値として目に見える血圧を下げるには薬の服用が手っ取り早く思えますが、生活習慣の改善によって薬だけに頼らない状態を目指すことも重要です」(谷本医師)

 多くの人が服用する降圧剤。果たしてその薬は本当に必要なのか。そこから見つめ直さなくてはならない。

※週刊ポスト2024年5月17・24日号

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