大牟田署に入る浪川総裁
浪川氏は直撃にこう答える
抗争が終結してからも、道仁会と浪川会の間には、常に緊張感が漂っている。道仁会はとりあえず抗争を止めたが、組織を割って出た浪川会の独立を認めたわけではないからだ。お互いに殺し合った過去は、いつ何時、怨嗟を再燃させるか分からない。が、抗争の最前線にいた両者が引退すれば大きな節目となり、分裂の最終的な解決に一歩近づく。そのための引退だったという意味だろう。
浪川会は既成事実としてすでに独立状態だが、道仁会がそれを認めない以上、暴力団社会は浪川会と一線を引かねばならない。全国の暴力団すべてが参列した工藤會の溝下秀男総裁の葬儀に誠道会(現浪川会)だけが不参加だったように、浪川会はいまだ義理事に呼べない。もしルールを破れば、道仁会に喧嘩を売ったことになってしまう。分裂問題の完全解決はまだ先なのだ。
私は浪川氏に「今後、ヤクザ社会には関与しないのか?」と質問した。
「堅気であれ渡世人であれ、今後、自分が一般人として、社会生活を築いていくために激励してくれる人とは、どなたでも付き合いをしていくべきじゃないかと思う」
どう解釈したらいいのか難しいが、警察に引退を届け出て、マスコミを通じて引退を表明した以上、浪川氏もまた二度とヤクザ社会の表舞台には登場できない。現役暴力団は明確に堅気を下に見て対応を変えるが、浪川氏だけが例外とはならない。警察は記者クラブメディアに、「引退を悪用する」と吹聴していると聞いた。しかし、引退を撤回することはできず、暴力団としての浪川氏はこの日で完結している。
◆取材・文/鈴木智彦(フリーライター)