運転トラブルで軽自動車のドライバーには被害者側というイメージが強いが、現実は複雑だ(イメージ)

運転トラブルで軽自動車のドライバーには被害者側というイメージが強いが、現実は複雑だ(イメージ)

 不審に思ってそちらを見ると運転席の窓が開いた。顔を出したのは、マスクをかけた20代くらいの女性。「ハンドルにしがみつくように運転してたんだろう。ハンドルと体の距離がとても近かったから、たぶん小柄な女だね」と話す組長に、女性の髪の色を聞くと「あまりに驚いて覚えていない」という。

 女性はおもむろに組長の方を向くと、していたマスクを左手で顔からはぐように取ったのだ。組長を鋭く睨むと、「ウィンカーぐらい出せ、このヤロー」。組長めがけて怒鳴り声をあげたのだ。唖然とする組長と子分を尻目に、女性はそのまま車を発進させ走り去っていった。

怒鳴られたじゃない「罵声を浴びせられた」だ

「いったい何が起きたのか。なぜ怒鳴られるのかわからなかった。それもヤンキーみたいな女の子が、こんな風にマスクをはぎ取って」、組長と子分はしばし呆気に取られて、結局、右折するのを忘れたという。ここ数年の中で一番驚いた出来事だったそうだ。

「こっちの顔を見て、このヤローまで言ったんだぜ。よっぽどムシの居所が悪かったんだろうな。こっちは走っていて、他の車もいないから右折レーンに入っただけだ。後ろに軽自動車はいたが車間距離もあったし、その後ろに車がいなかった。軽自動車の進路を妨害したとか、煽ったとか追い越したとか、迷惑行為は一切ない。田舎道を子分と話をしながら、のんびり走っていただけだ。それをわざわざ青信号の交差点で車を止めて、していたマスクを取ってまで怒鳴られた」と、法律のことは無視して自分たちの言い分をいって、「怒鳴られたじゃないな、罵声を浴びせられた、だ」と言い直す。

 真横に車をつけたというなら、ヤンキーみたいな女の子は組長の顔も子分の顔も見たはずだ。一目でその筋とわかるような彼らを見ても、その女の子はひるむどころか強烈な罵声を浴びせたのだ。「ここ数年で一番驚いたね。言われたのがこのヤローでよかったよ。バカヤローと怒鳴られたら、子分がキレてたかもな」。組長と子分はその後の数時間、この話で盛り上がったという。

「でも、相手が俺たちでよかったよ。俺たちはヤクザだから、何か言われても『あっ、すみません』って素直に謝る。これが半グレか輩みたいにイキがっているヤツらだったら、下手したら命がないぜ。ヤンキーの女も危ないな。女同士、絶対にそこでケンカになる」という組長は、「あの子に教えてやればよかったよ。罵声を浴びせるにも相手に注意しろって」という。

“いや、どれも危ないですよ”とは言い返せなかった。

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