国内

《追悼評伝》徳田虎雄氏“不随の病院王”の功罪「『絶対善』の目的のためには手段はすべて肯定される」 伝説の選挙戦「保徳戦争」では現金が乱舞し選挙賭博も横行

医療法人・徳洲会の創設者で元衆議院議員の徳田虎雄氏

医療法人・徳洲会の創設者で元衆議院議員の徳田虎雄氏

 医療法人・徳洲会の創設者で元衆議院議員の徳田虎雄氏が7月10日、亡くなった。週刊ポストで評伝を連載し、『トラオ 徳田虎雄 不随の病院王』を著わしたジャーナリスト・青木理氏がその功罪を振り返る(文中敬称略)。

 * * *
 一個の人間のなかには善なる部分と悪の部分が同居していて、完全な善人や悪人など存在しないと私は思っている。だが、その男はスケールが違った。いや、善とか悪といった判断基準すら持ちあわせていなかったのではないか、と訝る。

 その男──徳田虎雄が逝った。享年86。この国最大級の医療グループ・徳洲会を裸一貫から一代で築きあげた男の原点は、生まれ故郷である徳之島にあった。

 行政区域としては鹿児島県に属し、沖縄諸島との間に浮かぶ奄美群島の島で徳田が生まれたのは1938年。間もなく終戦を迎えると奄美は沖縄などと同様、米軍統治下に置かれ、ただでさえ貧しかった亜熱帯の島は極貧の底に沈んだ。

 徳田が小学3年のとき。大した病ではなかったのに、幼い弟が医師に診てもらえもせず死んだ。貧困と離島ゆえの悲哀。同じ目に遭う者をなくしたいと、だから医師になって離島や僻地に病院を作ると、徳田は一貫して訴え、おそらくそこに嘘はない。もう10年以上前、私が島で取材すると、幼少期の徳田を知る古老もこう懐かしんだ。

「トラオさん、すごく泣いてね。あれ以来、『医者になる』って言い出して。みんなは『トラオが医者になれるわけない』とバカにしとったけど」

伝説の「保徳戦争」

 だが、徳田は苦学して大阪大医学部に進んで医師となり、1973年には巨額の借金を負って大阪・松原に最初の病院を開く。このとき弱冠34歳。以後、猛烈な勢いで全国に徳洲会病院を開設し、「命だけは平等だ」「年中無休、24時間オープン」といったスローガンを掲げ、悲願だった故郷の島に病院を開設したのは1986年──。

 そう記せば、幼き日の悲哀をパワーに変えた男の出世譚である。だが、徳田はそんな常識の範疇に収まらない。強引な病院開設は各地の医師会などと激しい軋轢を引き起こし、徳田の側から見ればそれは巨大な既得権に胡座をかく連中の独善に映ったし、医師会の側からは安定した医療秩序を破壊する狼藉者に見えたろう。

 そのどちらの言い分に理があったかはともかく、医師会は与党・自民党を支える牢固な政治勢力でもあり、これと対峙して「医療改革」を遂げるには政治力が必要だと徳田は思い定める。

関連記事

トピックス

全国でクマによる被害が相次いでいる(AFLO/時事通信フォト)
「“穴持たず”を見つけたら、ためらわずに撃て」猟師の間で言われている「冬眠しない熊」との対峙方法《戦前の日本で発生した恐怖のヒグマ事件》
NEWSポストセブン
韓国のガールズグループ「AFTERSCHOOL」の元メンバーで女優のNANA(Instagramより)
《ほっそりボディに浮き出た「腹筋」に再注目》韓国アイドル・NANA、自宅に侵入した強盗犯の男を“返り討ち”に…男が病院に搬送  
NEWSポストセブン
ラオスに到着された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月17日、撮影/横田紋子)
《初の外国公式訪問》愛子さま、母・雅子さまの“定番”デザインでラオスに到着 ペールブルーのセットアップに白の縁取りでメリハリのある上品な装い
NEWSポストセブン
ドジャース入団時、真美子さんのために“結んだ特別な契約”
《スイートルームで愛娘と…》なぜ真美子さんは夫人会メンバーと一緒に観戦しないの? 大谷翔平がドジャース入団時に結んでいた“特別な契約”
NEWSポストセブン
山上徹也被告の公判に妹が出廷
「お兄ちゃんが守ってやる」山上徹也被告が“信頼する妹”に送っていたメールの内容…兄妹間で共有していた“家庭への怒り”【妹は今日出廷】
NEWSポストセブン
靖国神社の春と秋の例大祭、8月15日の終戦の日にはほぼ欠かさず参拝してきた高市早苗・首相(時事通信フォト)
高市早苗・首相「靖国神社電撃参拝プラン」が浮上、“Xデー”は安倍元首相が12年前の在任中に参拝した12月26日か 外交的にも政治日程上も制約が少なくなるタイミング
週刊ポスト
相撲協会の公式カレンダー
《大相撲「番付崩壊時代のカレンダー」はつらいよ》2025年は1月に引退の照ノ富士が4月まで連続登場の“困った事態”に 来年は大の里・豊昇龍の2横綱体制で安泰か 表紙や売り場の置き位置にも変化が
NEWSポストセブン
三重県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年11月8日、撮影/JMPA)
《季節感あふれるアレンジ術》雅子さまの“秋の装い”、トレンドと歴史が組み合わさったブラウンコーデがすごい理由「スカーフ1枚で見違えるスタイル」【専門家が解説】
NEWSポストセブン
俳優の仲代達矢さん
【追悼】仲代達矢さんが明かしていた“最大のライバル”の存在 「人の10倍努力」して演劇に人生を捧げた名優の肉声
週刊ポスト
10月16日午前、40代の女性歌手が何者かに襲われた。”黒づくめ”の格好をした犯人は現在も逃走を続けている
《ポスターに謎の“バツ印”》「『キャー』と悲鳴が…」「現場にドバッと血のあと」ライブハウス開店待ちの女性シンガーを “黒づくめの男”が襲撃 状況証拠が示唆する犯行の計画性
NEWSポストセブン
全国でクマによる被害が相次いでいる(右の写真はサンプルです)
「熊に喰い尽くされ、骨がむき出しに」「大声をあげても襲ってくる」ベテラン猟師をも襲うクマの“驚くべき高知能”《昭和・平成“人食い熊”事件から学ぶクマ対策》
NEWSポストセブン
オールスターゲーム前のレッドカーペットに大谷翔平とともに登場。夫・翔平の横で際立つ特注ドレス(2025年7月15日)。写真=AP/アフロ
大谷真美子さん、米国生活2年目で洗練されたファッションセンス 眉毛サロン通いも? 高級ブランドの特注ドレスからファストファッションのジャケットまで着こなし【スタイリストが分析】
週刊ポスト