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百条委員会で兵庫県の斎藤元彦知事が連発した「記憶にない」 心理士が分析する「不作為バイアス」の効果

涙を交えて記者会見する斎藤元彦兵庫県知事。9月11日午後(時事通信フォト)

涙を交えて記者会見する斎藤元彦兵庫県知事。9月11日午後(時事通信フォト)

 数々の疑惑で全国的な注目を集めている兵庫県の斎藤元彦知事は、9月11日午後の会見で県議会の全議員、とくに3年前の知事選で支援を受けた自民党議員から辞職を求められていることについて問われ、涙ぐんだ。臨床心理士の岡村美奈さんが、百条委員会での斎藤知事をはじめ、政治家が繰り返す「記憶にない」発言の狙いについて分析する。

 * * *
「記憶にない」、その一言を聞いた途端、真実を隠そうとしているのか、自己保身に走ったのか、と思えてくるのは、それが疑惑や罪から逃れようとする政治家たちの常套句だからだ。嘘をつくと偽証罪に問われる場において事実と違う発言をしたとしても、「記憶にない」と言えば逃げ切ることができると彼らは思っているのだろう。

 兵庫県議会調査特別委員会(百条委員会)の証人尋問に応じた兵庫県知事の斎藤元彦氏も、いくつもの質問に対して「記憶にない」と連発した。告発文書を送られると「誹謗中傷性の高い文書」「噂話を集めたもの」として犯人捜しを行い、それが県の元幹部とわかると「嘘八百」「公務員失格」と断じて懲戒処分にした。元幹部はその後、死亡。百条委員会で、亡くなった職員に対して聞かれても「道義的責任が何か私にはわからない」「亡くなった理由は本人にしか分からない」と、表情を変えることなく淡々と述べた。

 百条委員会で次々と明らかになっていくパワハラやおねだり疑惑も大きな問題だが、公益通報の調査結果を待たずに処分してしまったのは法律違反になる可能性が高い。それについて問われた斎藤知事は“記憶にない”とは言わず、「法的に問題ない」「手続きに瑕疵はない」と嘘八百と非難した時の口調とは変わって力のない声で主張し、自ら下した処分の違法性を否定、「真実正当性がなく公益通報の保護要件には該当しない」と繰り返した。だが調査を指示したかなどの質問には「記憶にない」を連発、都合が悪い質問には記憶がなくなってしまうのだが、知事としての対応に問題なかったという姿勢に終始した。

 嘘には2種類の嘘がある。1つは「作為の嘘」で、もう1つは「不作為の嘘」だ。作為の嘘は事実と異なることを相手に伝えることで、不作為の嘘は事実を知っているのにあえて何も言わないことで相手を欺くことである。過去、国会では疑惑を追及された政治家が刑事訴追等から逃れるために、「記憶にない」という言葉を使ってきた。つい最近も自民党派閥の政治資金パーティーの裏金事件を受けて開かれた参院政治倫理委員会で、世耕弘成前参院自民党幹事長が「記憶にない」「知らない」を繰り返していたことは記憶に新しい。

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