岡八郎(左)と花紀京

岡八郎さん(左)と花紀京さん(写真提供/吉本興業)

代表作「熱燗」

 今と昔の新喜劇を観ていて、いちばん違うなと思うのはアドリブに対する考え方です。昔は勝手に自分のギャグとかを入れたりしたら、むちゃくちゃ怒られたんですよ。「そんなこと台本に書いてないやろ!」って。

 今の新喜劇は割と全員に見せ場があるじゃないですか。それぞれのギャグがあって、それをやってもいい雰囲気がある。でも、昔は違いました。まずは誰よりも座長がウケなければならない。だから、座長だけはアドリブも許されたんです。八郎師匠もオナラをためといて、出て行ったときにプーッとやると、演者が全員笑う。そこでお約束の「くっさー」というセリフをはく。これは師匠の定番のギャグです。

 そういえば、花紀師匠はいわゆるギャグはなかった気がします。花紀師匠は「いきと間」の人でした。言葉の抑揚とか、言葉を発するタイミングで笑わせる。八郎師匠も花紀師匠も大看板だったので、2人が一緒の舞台に立つということはあまりなかったんです。でも特別興行のときなどに2人でコントなんかをすることがあって。代表作の1つに『熱燗』というネタがあるんです。花紀師匠が「熱いな。埋めて(酒を入れて)」と言って、ぐびりとやる。今度は「ぬるいわ」と言ってお湯を足す。それを延々と繰り返す。あのコント、阪神君といつか一緒にやりたいなと言ってるんですけど、難しいですよ。単純なだけに技術がいる。

芸人の宿命

 2人が輝いていたのは1980年代半ばくらいまででしたね。時代が変われば、必要とされる役者も変わる。芸人の宿命です。新喜劇もだんだんとお客さんが入らなくなってきて、1989年に会社が「新喜劇やめよッカナ?キャンペーン」というのをぶち上げたんです。一定期間にノルマとして設定された入場者数を集められなかったら、新喜劇はもうやめる、と。顔ぶれも刷新されて、そのときに八郎師匠も花紀師匠も新喜劇を去りました。結果的にキャンペーンは成功して、今やなんばグランド花月は連日、大入り満員の盛況が続いています。だから、今の新喜劇は正解なのだと思います。

 ただ、この前、新喜劇の役者と話していて、びっくりしたことがあったんです。今、まったく化粧をしないで舞台に出る人がおるらしいんです。漫才師なら、まだわかるんですけども。新喜劇はお芝居なんやから。他人を演じるわけでしょう? せめて化粧道具くらいは持っておいて欲しいな。

【プロフィール】
オール巨人(おーる・きょじん)/1951年、大阪府生まれ。1974年に入門した師匠・岡八郎を敬愛する。ちなみに阪神タイガースファンである。

【取材・文】
中村計(なかむら・けい)/1973年、千葉県生まれ。著書に『甲子園が割れた日』『勝ち過ぎた監督』『笑い神 M-1、その純情と狂気』など。スポーツからお笑いまで幅広い取材を行なう。近著に『落語の人、春風亭一之輔』と、共著『高校野球と人権』。

※週刊ポスト2024年9月20・27日号

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