それでも、自厩舎の馬をずっと調教していくうちに、いろいろ覚えていってくれていると実感できることはありました。いわゆる「難しい馬」―掛かり癖のある馬、走りたがらない馬、もたれる馬、反抗心の強い馬などでも、だんだんコンタクトが取れるようになったときは、何とも言えない気分でした。
騎手として実績を積んでいくと、こちらの意見もある程度取り入れてもらえるようになります。そのためには厩舎や馬主さんとの信頼関係を築いていくことも大事でした。
調教で馬をつくっていくことと、レースで力を発揮することは同じぐらい大切です。調教でジョッキー以上に馬を動かすことが巧みな助手もいれば、リーディング上位に名を連ねていなくても、「調教名人」と言われるジョッキーはいるのです。
デビュー戦の鞍上は馬主さんの意向が優先されますが、調教師に任せてくれるという時には、日頃から調教に乗っていて癖や性格がわかっているジョッキーに乗ってほしいと思います。
【プロフィール】
蛯名正義(えびな・まさよし)/1987年の騎手デビューから34年間でJRA重賞はGI26勝を含む129勝、通算2541勝。エルコンドルパサーとナカヤマフェスタでフランス凱旋門賞2着など海外でも活躍、2010年にはアパパネで牝馬三冠も達成した。2021年2月で騎手を引退、2022年3月に52歳の新人調教師として再スタートした。この連載をベースにした小学館新書『調教師になったトップ・ジョッキー~2500勝騎手がたどりついた「競馬の真実」』が発売中。
※週刊ポスト2024年10月11日号