ライフ

【書評】『虚史のリズム』舞台は太平洋戦争の南方戦地と戦後の米軍占領下の日本 1100ページの大ボリュームで描く歴史ミステリー

『虚史のリズム』/奥泉光・著

『虚史のリズム』/奥泉光・著

【書評】『虚史のリズム』/奥泉光・著/集英社/5280円
【評者】鴻巣友季子(翻訳家)

『グランド・ミステリー』、『神器 軍艦「橿原」殺人事件』、『東京自叙伝』、『雪の階』など、奥泉光は第二次大戦(大東亜戦争)や二・二六事件など、史実を題材に取り入れた大部の小説を書いてきた。

 それらの多くはミステリーの体裁をとっている。だいたい殺人事件が起き、その謎を解明する探偵役がいて進行していく。とはいえこの著者の「ミステリー」なので、犯人捜しや謎ときに向かって直線的に進んでいくわけではない。謎ときの何十倍かの枝葉のストーリーとプロットが怒涛の勢いで押し寄せ、入り組み、絡みあう。結果、その小説はひと口では筋や結末を説明できないものになる。奇書と言ってもいいと思う。

 さて、そんな作者らしさが究極の形をとったのが、最新作の大長編『虚史のリズム』だ。千百ページ弱のボリューム、登場人物表には六十人近くが載っている。

 舞台は、太平洋戦争の南方戦地と戦後の米軍占領下の日本だ。一九四七年、棟巍正孝なる元陸軍中将が妻とともに自宅で刺殺される。これが物語の発端となる出来事だが、同時に、正孝の長男とその妻の倫子、さらに正孝の三男が、行方知れずになってしまう。そこで浮かびあがってくるのが、GHQやヤクザ組織も血眼で追っているという「K文書」なる予言的テクストである。

 この文書の執筆者として、反対米戦争派だった元海軍大佐の名が挙がるのだが、この男、行方不明の倫子の実父なのだ。探偵事務所を構えたばかりの主人公石目鋭二が調査に乗りだし、これらの殺人犯捜索と文書追跡が交錯する形で展開していく。

 作者が先行作の歴史ミステリーで問うてきたのは、「歴史の言語化」、「内省的知性」、「主体的自由」ということである。日本人は戦争体験を言語化して省察し、主体的に考えられているだろうか? それとも、群れ集まる鼠の集合体のようなものなのか? 大著の迷宮を彷徨いながら思いめぐらせていただきたい。

※週刊ポスト2024年10月11日号

関連記事

トピックス

真美子さん(共同通信)が使用していたブランドとは
《ハワイ・ファミリーデートで真美子さんが持っていたプチプラバッグ》「同年代インフルエンサーのアスレジャーブランド」か?と話題に 実用性の高いトートバッグ、大谷は「娘のベビーカー担当」
NEWSポストセブン
アメリカのトランプ大統領と、ベネズエラのマドゥロ大統領(AFP=時事)
《日本への影響も》トランプ政権のベネズエラ攻撃・大統領拘束作戦 中国・ロシアの参戦リスクは 今後の「3つのシナリオ」
NEWSポストセブン
元“ぶりっ子”さとう珠緒の現在の恋愛観は……?
「事実婚じゃダメですか?」「あ、別居婚ならいいのかな」元“ぶりっ子”さとう珠緒(53)が明かす現在の“自分を大切にする恋愛観”とは 
NEWSポストセブン
核保有の是非を“議論”することすら封殺される状況に問題はないのか(時事通信フォト)
《あえて問う「核保有シミュレーション」開発費用と年数》専門家は「日本の潜在的技術能力なら核弾頭開発は可能」と分析 原潜に搭載なら「3兆~5兆円の開発費と年5000億円の維持費」
週刊ポスト
一世を風靡したビートきよしの現在とは
《意識失い2025年に2度の救急搬送》難病で体重22キロ増減のビートきよし、週3回人工透析も…“止められない塩分摂取”「やり残したことなんてない」 
NEWSポストセブン
年末、大谷夫妻はハワイで過ごしていたようだ
《お団子白コーデの真美子さんに合わせたペアルック》大谷翔平の「イジられる」魅力…ハワイではファンに妻と笑顔の対応、後輩も気を遣わない「自信と謙虚さのバランス」
NEWSポストセブン
川島なお美さんを支え続けた、夫でパティシエの鎧塚俊彦氏(2011年10月)
《また恋をしたいとは思っています》パティシエの鎧塚俊彦氏、妻・川島なお美さんを亡くして自問自答の10年「僕らの選択は正しかったのか…」
NEWSポストセブン
引退する棚橋弘至(右)と、棚橋への思いを語る武藤敬司(左)
《棚橋弘至がついに引退へ》「棚橋も俺みたいにハゲていけばよかったんだよ」武藤敬司が語ったかつての付き人に送る“はなむけの言葉”
NEWSポストセブン
餅つきに現れた司忍組長
《六代目山口組の餅つきに密着》近隣住民も驚いた「6時間の“ヨイショ”の掛け声」…高山清司相談役の登場に警察が驚愕したワケ
NEWSポストセブン
店を出て言葉を交わす2人(2025年11月)
《寄り添う夫婦の黒コーデ》今井美樹と布袋寅泰、街中でかかげたキラりと光る指輪に妻の「プライド」高級スーパーでお買い物
NEWSポストセブン
今森茉耶(事務所HPより、現在は削除済み)
《ゴジュウジャー降板女優の今森茉耶》SNS投稿削除で“消息不明”に…母親が明かした複雑な胸中「何度でもやり直せる」
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」新春合併号発売! 2026年を見通すオールスター14対談ほか
「週刊ポスト」新春合併号発売! 2026年を見通すオールスター14対談ほか
NEWSポストセブン