日本ハム時代の江夏豊(右)。100セーブ達成時に大沢啓二監督と
自分の人生を振り返ると反省の連続だった
18年間の野球人生でやり直したい場面は山ほどある。後悔の塊だもの。ただそれを人に見せない、それを知られたくないという部分はあるよ。自分がもう少し大人になって頭を下げていれば何でもないことなのに我を張ったばかりに話がややこしくなった例はたくさんある。でもそれも人生であり、仕方がない。
人を恨むじゃなく自分を恨め、だ。最終的には自分が反省してどういう行動を見せるかだ。自慢にならないけど、俺にはたくさんの友がいる。でも反面、お前の性格が嫌なんやって思う人もいるんじゃないかと思う。
例えば、衣笠祥雄という男は早く亡くなってしまったけど、俺のことを内心どう思っていたかわからない。俺にとっては大の友人だったけど、あいつ自身は「こいつはやりづらい男だな」と思っていたかもしれない。ただ俺の気持ちをよく理解しようとしてくれたし、俺にとって衣笠は最高の友達だと思ってる。
自分の人生を振り返ると反省の連続だったけど、いろんな人と巡り会い、いろんな場所で接点を持てた。たくさんの思い出が作れたことは本当に良かったし、すべての人たちに心から感謝している。たくさんの思い出があるだけで財産だし、思い出は消えないものだからいつまでも大切にしたい。
野球人として、ひとりの人間として、たくさんの人に生かされ、励まされ、精一杯生きてきた。それだけは後悔がないと胸を張って言えるよ。
(第1回から読む)
【プロフィール】
江夏豊(えなつ・ゆたか)/1948年、兵庫県生まれ。1967年に阪神入団後、南海、広島、日本ハム、西武と渡り歩く。1984年に引退。オールスターでの9連続奪三振、日本シリーズでの「江夏の21球」など様々な伝説を持つ。
松永多佳倫(まつなが・たかりん)/1968年、岐阜県生まれ。琉球大卒業後、出版社勤務を経て執筆活動開始。近著に『92歳、広岡達朗の正体』(扶桑社)などがある。
※週刊ポスト2024年12月20日号