ライフ

“江戸の出版王”蔦屋重三郎が育てた喜多川歌麿は何がすごいのか? 写実性、奇抜な構図、心情表現…美人画に込められた巧みな技法

東洲斎写楽『三代目大谷鬼次の江戸兵衛』東京国立博物館 ColBasee(https://colbase.nich.go.jp)

東洲斎写楽『三代目大谷鬼次の江戸兵衛』東京国立博物館 ColBasee(https://colbase.nich.go.jp)

 1月5日にスタートする大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』の主人公は、横浜流星が演じる蔦屋重三郎。“蔦重”は色街・吉原に生まれ育ち、遊郭や遊女にまつわる出版物でヒットを連発して江戸の出版界を牽引した人物だが、彼の業績を語るうえで欠かせない絵師が、東洲斎写楽(生没年不詳)と喜多川歌麿(1753?~1806)だ。

 写楽はまったく無名の新人にもかかわらず、寛政6(1794)年5月に突如、28枚の役者絵を蔦重の店から発表。翌年1月までに140点あまりの作品を残したまま、こつ然と姿を消した。

 一方、歌麿は安永10(1781)年に蔦重が刊行した滑稽本の挿絵で才能が認められ、当時、蔦重が最も力を入れていた狂歌絵本の挿絵を描く絵師に抜擢されている。美人画の名手として歌麿の才能が花開いた作品が、天明8(1788)年に発刊された浮世絵春画本『歌まくら』だ。

「版元名が記載されていないものの、この頃の歌麿の活動と照らし合わせれば、蔦重が関わっている可能性は非常に高いと考えられています」

 こう語るのは、浮世絵専門の美術館である太田記念美術館で主席学芸員を務める日野原健司氏だ。

「初期の歌麿には動植物を描いた『画本虫撰』という蔦屋発刊の狂歌絵本があり、その精緻な筆致から鋭い観察眼がうかがえます。『歌まくら』では写実性はもとより、キスシーンであえて二人の顔が見えないよう描くなど、それまでの春画には見られない奇抜な構図が盛り込まれ、芸術家として新たな春画を生み出そうという意欲が全12図にわたって満ちています」(日野原氏)

 そうした野心が結実したのが、寛政4~5(1792~1793)年頃に発表された美人大首絵シリーズ『婦人相學十躰』だ。大首絵とは、上半身を描いた人物画のこと。従来は役者絵などで用いられていた手法を美人画に採用する独創的な発想は、世間の度肝を抜いた。

「一般的に美人画は喜怒哀楽がはっきりせず、表情に乏しい。それは感情を顕わにしないのが江戸時代の女性の嗜みと考えられていたからです。歌麿の描く美人画は、視線や首の傾きなど少しのエッセンスを加えることで内面の色気を描き出した。『思い悩んでいる』『ふてぶてしい』といった心情を鑑賞者に想像させる表現を巧みに駆使したのが歌麿の描く美人画の最大の特徴です」(日野原氏)

 寛政6(1794)年頃を境に、歌麿は蔦重以外の版元との仕事が増え、親密だった2人の関係性は次第に疎遠になった。

「美人画は風紀を乱すとの幕府の規制が年々強まり、歌麿は文化元(1804)年に捕縛されます。これ以降、毅然と気骨ある作品を発表し続けた歌麿のモチベーションもさすがに下がったようで、作品の質も低下しています。捕縛から2年後に歌麿は死去しますが、彼の類まれな技術は江戸時代を通じても突出していると思います」(日野原氏)

取材・文/小野雅彦

※週刊ポスト2025年1月17・24日号

関連記事

トピックス

日高氏が「未成年女性アイドルを深夜に自宅呼び出し」していたことがわかった
《本誌スクープで年内活動辞退》「未成年アイドルを深夜自宅呼び出し」SKY-HIは「猛省しております」と回答していた【各テレビ局も検証を求める声】
NEWSポストセブン
12月3日期間限定のスケートパークでオープニングセレモニーに登場した本田望結
《むっちりサンタ姿で登場》10キロ減量を報告した本田望結、ピッタリ衣装を着用した後にクリスマスディナーを“絶景レストラン”で堪能
NEWSポストセブン
訃報が報じられた、“ジャンボ尾崎”こと尾崎将司さん(時事通信フォト)
笹生優花、原英莉花らを育てたジャンボ尾崎さんが語っていた“成長の鉄則” 「最終目的が大きいほどいいわけでもない」
NEWSポストセブン
実業家の宮崎麗香
《セレブな5児の母・宮崎麗果が1.5億円脱税》「結婚記念日にフェラーリ納車」のインスタ投稿がこっそり削除…「ありのままを発信する責任がある」語っていた“SNSとの向き合い方”
NEWSポストセブン
出席予定だったイベントを次々とキャンセルしている米倉涼子(時事通信フォト)
《米倉涼子が“ガサ入れ”後の沈黙を破る》更新したファンクラブのインスタに“復帰”見込まれる「メッセージ」と「画像」
NEWSポストセブン
訃報が報じられた、“ジャンボ尾崎”こと尾崎将司さん
亡くなったジャンボ尾崎さんが生前語っていた“人生最後に見たい景色” 「オレのことはもういいんだよ…」
NEWSポストセブン
峰竜太(73)(時事通信フォト)
《3か月で長寿番組レギュラー2本が終了》「寂しい」峰竜太、5億円豪邸支えた“恐妻の局回り”「オンエア確認、スタッフの胃袋つかむ差し入れ…」と関係者明かす
NEWSポストセブン
2025年11月には初めての外国公式訪問でラオスに足を運ばれた(JMPA)
《2026年大予測》国内外から高まる「愛子天皇待望論」、女系天皇反対派の急先鋒だった高市首相も実現に向けて「含み」
女性セブン
夫によるサイバーストーキング行為に支配されていた生活を送っていたミカ・ミラーさん(遺族による追悼サイトより)
〈30歳の妻の何も着ていない写真をバラ撒き…〉46歳牧師が「妻へのストーキング行為」で立件 逃げ場のない監視生活の絶望、夫は起訴され裁判へ【米サウスカロライナ】
NEWSポストセブン
シーズンオフを家族で過ごしている大谷翔平(左・時事通信フォト)
《お揃いのグラサンコーデ》大谷翔平と真美子さんがハワイで“ペアルックファミリーデート”、目撃者がSNS投稿「コーヒーを買ってたら…」
NEWSポストセブン
愛子さまのドレスアップ姿が話題に(共同通信社)
《天皇家のクリスマスコーデ》愛子さまがバレエ鑑賞で“圧巻のドレスアップ姿”披露、赤色のリンクコーデに表れた「ご家族のあたたかな絆」
NEWSポストセブン
硫黄島守備隊指揮官の栗林忠道・陸軍大将(写真/AFLO)
《戦後80年特別企画》軍事・歴史のプロ16人が評価した旧日本軍「最高の軍人」ランキング 1位に選出されたのは硫黄島守備隊指揮官の栗林忠道・陸軍大将
週刊ポスト