1925年の竣工から今年で100年を迎える安田講堂(写真/イメージマート)

1925年の竣工から今年で100年を迎える安田講堂(写真/イメージマート)

 しかし、僕は大学を卒業してから2年間決して遊んでいたわけではない。なんなら、人一倍努力をしていた。しかし、その努力は決して企業から認められるものではなかった。いや、それどころか、その努力は存在すらしないものにしなければならなかった。

 就活でよく聞かれることといえば「学生時代に頑張ったこと」だ。だが、僕は勉強・部活・バイト、どれも月並み。そんな僕の中で最も力を入れたと自信を持って言えるのが「演劇」だった。そのため、ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)はそれについて話そうとした。目標は「役者」、頑張ったことは「演劇」、これで行こう。しかし、これが全然ダメだった。

 そもそも僕が役者の道を諦め、就活をしている時点で目標を達成できていない。だから、努力の信憑性すらなかった。途中でガクチカ上での目標を下げ「いい舞台をつくること」に切り替えたが、これも芸術特有の曖昧さが仇となり、僕の言語化能力では定量的に説明することができなかった。

 たまたま通った面接でも、演劇について興味を持って触れられることはほとんどなかった。それどころか、「やるべきことから逃げていただけじゃない?」と何処の馬の骨ともわからんガタイだけ一丁前の体育会野郎に一蹴された。「やるべきこと」ってなんだよ、お前がつくった檻の世界に僕を閉じ込めるなよ。自分からその檻の世界に入ろうとしている僕にそんなことを言う資格はなく、お得意の愛想笑いでその場を凌ぎ、結局不採用をいただいた。

 僕が既卒になってまでやってきた努力なんて企業からすればゴミクズ同然だった。就活には「就活向きの努力」が必要、それを痛いほど感じた。

 そこからは大企業という目標を下げ、ガクチカも定量的に説明しやすい受験勉強にした。就活では、僕が人生を賭けて挑んできた演劇は黙殺しなければいけなかった。

 もちろん、面接では卒業してからの2年間のことについて聞かれた際には正直に言った。しかし、企業側も特にそれ以上掘り下げることはなく、大学時代の勉強や部活のことについて触れていった。

 そして、僕の気持ちを押し殺せば押し殺すほど、今までのことが嘘のようにエントリーシートや面接に通っていった。大企業では受験勉強を出しても全員がそれを引っ提げている前提なのであまり刺さらないだろうが、準大手や中小レベルであればこれが意外とブッ刺さったのだ。

 しかし、好調になっていく結果とは裏腹に、僕の中では就活に対しての不信感が募るばかりだった。既卒差別、おあつらえ向きの努力。煮え切らない気持ちだけが腹の中で渦巻き合い、今も消化できないまま僕の就活は幕を閉じた。

 とまあこんなところだ。いろいろ大変なことも多かったが、結果として3社内定をいただいた。しかし、結局今はネットで恥を晒している学歴ピエロを演じている。

 内定した会社に東大の底辺として入社するべきだったか、YouTubeの修羅の道を貫くべきだったか、今でもどちらが正解だったかわからなくなるときがある。とはいえ、YouTubeを選んだおかげか、今、拙著を手に取って読んでくれる人がいるという、前者の選択では成し得ないことを達成できた。少なくとも後者の選択肢は不正解ではなかったのかもしれない。

 本当に最後まで読んでくれてありがとう。そして、僕の選択を少しでも認めてくれてありがとう。引き続きあきぴでを、そして東大をよろしくお願いいたします。

(了。第1回を読む)

富山県トップの公立進学校から東大法学部という経歴を生かし「東大のリアル」を描いた『ヤバイ東大解剖録』(KADOKAWA)

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