ライフ

【書評】『ふりかえれば日々良日』女優・佐久間良子の謎解きができて、“日々良日”のおすそ分けをもらえる一冊

【書評】『ふりかえれば日々良日』佐久間良子/小学館/1870円

【書評】『ふりかえれば日々良日』佐久間良子/小学館/1870円

【書評】『ふりかえれば日々良日』佐久間良子/小学館/1870円

【評者】ペリー荻野(コラムニスト)

【本の内容】

 佐久間良子さんがこれまでの人生を振り返り、85歳となった今の暮らしを率直に綴った自伝的エッセイ集。本文の文字は大きめで、ユニバーサルデザインフォントを採用しているので高齢のかたにも読みやすくなっている。

 * * *

 日本を代表する俳優、佐久間良子にとって、はじめての著作となった本作は、ほのぼのとしたタイトルながら、読み始めると「ここまで書いていいの」「そういう理由だったの」と、驚きの連続。ベールに包まれていた「女優・佐久間良子」の謎解きができる一冊だ。

 たとえば、謎解きその1は、なぜ、映画界に入ったのか。

 育ったのは、「大きな鉄の門から青瓦が輝く二階建ての洋館まで、コンクリートの車道が続いていました」という練馬の広い家だった。屋敷からほとんど外に出ることもなく、飼っていたシェパードと遊んでいた箱入り娘は、ある日、学校の先輩から声をかけられ、映画界へと誘われる。東映の幹部が直々にスカウトにきても、両親は猛反対。しかし、ある出来事から、思い切って飛び込むことに。なのに書類上では「補欠合格」なの!?

 ニューフェイスの同期は、室田日出男、山城新伍、花園ひろみ、山口洋子、水木襄と錚々たる顔ぶれ。二期上には高倉健がいた。やがて彼女は、ギャング映画の添え物のような扱いから一歩前に進み、映画「五番町夕霧楼」に主演する。東映を離れてからは、大河ドラマ「おんな太閤記」、舞台「唐人お吉」など、多くの名作に挑むのである。丹波哲郎、三國連太郎、ジョージ・チャキリス、西田敏行……共演者や先輩、監督とのエピソードは、どれもイキイキとして楽しい。

 謎解きその2は、なぜ、この男に惹かれたのか。

 家庭のある鶴田浩二との恋。そのはじまりと終わりをサラリと書けるのは、自分の恋愛を客観的に見つめる冷静さがあったからだろう。

 そして、5つ年上の平幹二朗との結婚と離婚。

 結婚前、舞台「ハムレット」の役作りのため渡英した平と、メキシコの映画祭に出席後、空港でトラブルに巻き込まれながら、待ち合わせたウォータールーブリッジの真ん中でやっと会えた場面などは、まるで映画のよう。そんな二人が結婚し、新婚旅行の最中からケンカが続いたのだった。きっかけのひとつが、パリで偶然、見かけたアラン・ドロンだったというのは、びっくりである。

 やがて生まれた双子の子育てと仕事の両立は、想像を絶する大変さだった。そのさなかに離婚を決意。心境は静かに綴られるが、歯を食いしばって奮闘してきた彼女の本当の姿が、くっきり現れたような気がする。

 その元夫婦が、17年後、息子の岳大とともに舞台「鹿鳴館」で共演することになる。私は「鹿鳴館」の製作発表会見を取材したが、当時は、まだ少し三人に緊張があったように思う。この本の中で、公演の途中、平と大ゲンカになったとあるが、舞台は素晴らしかった。離婚会見で平が語った「人生の共演は失敗したが、芝居での共演相手としては最高だった」という言葉は、本当だった。

 謎解きその3は、美しく楽しく日々を送れる理由だ。

 日課のウォーキングや日展にも入選した書、仕事仲間とのお酒(強い!)やママ友との麻雀など、趣味は多彩だ。料理好きで食事の話もとても具体的で参考になる。それだけではなく、1998年、信頼していた人に騙され、利用され、大金を失った「二穣会」の騒動も綴られている。

「辛さや悲しみも今思えば私の財産です」と85歳の著者は記す。この境地にはまだまだなれないが、山あり谷ありの話を読みながら、「人生いろいろあるよな」とちょっと気持ちがほわっとなる。「日々良日」のおすそ分けをもらっているんだなと気がついた。

【プロフィール】

ペリー荻野/1962年生まれ。コラムニスト、時代劇研究家。著書に『バトル式歴史偉人伝』『テレビの荒野を歩いた人たち』『脚本家という仕事 ヒットドラマはこうして作られる』など多数。

女性セブン2025213日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

小室圭さんと眞子さん(2025年5月)
《英才教育》小室眞子さんと小室圭さん、コネチカット州背景に“2人だけの力で”子どもを育てる覚悟
NEWSポストセブン
アントニオ猪木さん
アントニオ猪木を看取った付き人が明かす「最期の2か月」 “原辰徳の物まねタレント”が猪木を介護することになった不思議な巡り合わせ
週刊ポスト
寄り添って歩く小室さん夫妻(2025年5月)
【ステーキの焼き方に一家言】産後の小室眞子さんを支えるパパ・小室圭さんの“自慢の手料理”とは 「20年以上お弁当手作り」母・佳代さんの“食育”の影響
NEWSポストセブン
不正駐輪を取り締まるビジネスが(CPGのHPより)
《不正駐輪車を勝手にロック》罰金請求をするビジネスに弁護士は「法的根拠が不明確」と指摘…運営会社は「適正な基準を元に決定」と主張
NEWSポストセブン
「子供のころの夢はスーパーマンだった」前田投手(時事通信フォト)
《ワンオペ育児と旦那の世話に限界を…》米国残留の前田健太投手、別居中の元女子アナ妻が明かした“日本での新生活”
NEWSポストセブン
眞子さんと佳子さま(時事通信フォト)
《眞子さん出産発表の裏に“里帰りせず”の深い溝》秋篠宮夫妻と眞子さんをつないだ“佳子さんの姉妹愛”
NEWSポストセブン
田中容疑者の“薬物性接待”に参加したと証言する元キャバクラ嬢でOLの女性Aさん
《27歳OLが告白》「ラリってるジジイの相手」「女性を切らすと大変なんだ…」レーサム創業者“薬漬け性接待”の参加者が明かした「高額報酬」と「異臭漂うホテル内」
週刊ポスト
宮内庁は小室眞子さんの出産を発表した(時事通信フォト)
【宮内庁が発表】眞子さん出産で注目が集まる悠仁さま成年式「9月ならば小室圭さんとともに出席できる可能性が大いにある」と宮内庁関係者
NEWSポストセブン
「大宮おじ」「先生」こと飯田光仁容疑者(32)の素顔とは──(本人SNS)
〈今日は〇〇にゃんとキスしようかな〉32歳無職が逮捕 “大宮界隈”で少女への性的暴行疑い「大宮おじ」こと飯田光仁容疑者の“危険すぎる素顔”
NEWSポストセブン
明るいご学友に囲まれているという悠仁さま(時事通信フォト)
悠仁さまのご学友が心配する授業中の“下ネタ披露” 「俺、ヒサと一緒に授業受けてる時、普通に言っちゃってさぁ」と盛り上がり
週刊ポスト
TBS系連続ドラマ『キャスター』で共演していた2人(右・番組HPより)
《永野芽郁の二股疑惑報道》“嘘つかないで…”キム・ムジュンの意味深投稿に添付されていた一枚のワケあり写真「彼女の大好きなアニメキャラ」とファン指摘
NEWSポストセブン
田中圭の“悪癖”に6年前から警告を発していた北川景子(時事通信フォト)
《永野芽郁との不倫報道で大打撃》北川景子が発していた田中圭への“警告メッセージ”、田中は「ガチのダメ出しじゃん」
週刊ポスト