ライフ

「女優」の呼び方をタブーにしないことが日本再興の必須条件だ

俳人の夏井いつきさんに句を褒められた室井滋

室井滋さんは多くの著作を持つ

 世の中の空気を無視して生きることはできないが、時に考え込んでしまう瞬間もあるのではないか。コラムニストの石原壮一郎氏が指摘した。

 * * *
「女優でいいじゃんって思います。私は。今さら俳優って言われてもなぁと思うし。女優のほうが、女が優しいって書いて、響きもいいじゃん」

 先日、女優であり作家である室井滋さんが『女子SPA!』のインタビューで、女優と呼ばれることをどう思うかと尋ねられて、こう答えました。さらに続けて「ほかの言動にしても、いまって、誰に気を使ってるのか分からないようなコンプラ問題がたくさんありますよね。私なんて、あちこちでしょっちゅう注意されちゃう(笑)」とも。

 いやもう、まったくおっしゃる通り。室井さんの「女優でいいじゃん発言」は、たくさんの共感を集め、大きな反響を巻き起こしています。ネット界隈を見わたしたところ、「そんな意識が低いことでどうする!」といったお叱りの声は見当たりません。

「性別によって呼び方を変えるのは差別だ」と主張され始めたのは、30年ぐらい前からだったでしょうか。まずは「スチュワーデス(スチュワード)」が、「客室乗務員」や「キャビンアテンダント(CA)」になります。続いて「保母(保父)」が「保育士」に、「看護婦(看護士)」が「看護師」に変わりました。

 逆に「男性に限定している表現」も、同じように規制されています。コラムなどを書くときに、今は「ビジネスマン」という言葉は使えません。「ビジネスパーソンにしてください」と言われます。「キーマン」も、いつの間にか「キーパーソン」になりました。「イエスマン」が「イエスパーソン」になるのも時間の問題……かな?

「スチュワーデス」「保母」「看護婦」の迫害が日本の凋落を招いた!?

 もちろん性別による差別もほかの差別も、絶対にあってはなりません。染み付いた無意識の差別意識にも、十分に気を付けたいところです。しかし、映画を観て「あの女優さん、素敵だったね」と言ったり、看護婦さんを看護婦さんと呼んだりするのは、そんなにいけないことなんでしょうか。「女性差別だ!」と糾弾されなければならないのでしょうか。

 性別で呼び方を分けないほうがいいという考え方は、十分にわかります。「性別による役割意識」だとか「ジェンダーバイアス」だとか、己の意識の高さを示したい人たちにしてみれば、その手の「わかりやすい正義」を振り回すのは、さぞ気持ちがいいでしょう。

 しかし、「女優って響き、好きなんだけどなあ」「スチュワーデスさんのほうが親しみを感じるのに」という気持ちを押しつぶそうとしてくるのは、大きなお世話です。「多様性」という言葉を使いたがる人ほど、多様な価値観や生き方を認めず、自分の考える「正しさ」の枠に押し込めようとする傾向があると言えるでしょう。

「スチュワーデス」や「保母」や「看護婦」という言葉が迫害され始めた時期と、日本全体が元気をなくしていった時期は、ほぼ重なっています。もしかしたら、世の中全体が信念も覚悟もなく「スチュワーデス」や「保母」や「看護婦」をタブーにしてしまったことが、今の日本の凋落を招く一因になったのかもしれません。

あわせて読みたい

関連記事

トピックス

ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン
渡邊渚さん(撮影/藤本和典)
「私にとっての2025年の漢字は『出』です」 渡邊渚さんが綴る「新しい年にチャレンジしたこと」
NEWSポストセブン
ラオスを訪問された愛子さま(写真/共同通信社)
《「水光肌メイク」に絶賛の声》愛子さま「内側から発光しているようなツヤ感」の美肌の秘密 美容関係者は「清潔感・品格・フレッシュさの三拍子がそろった理想の皇族メイク」と分析
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
国宝級イケメンとして女性ファンが多い八木(本人のInstagramより)
「国宝級イケメン」FANTASTICS・八木勇征(28)が“韓国系カリスマギャル”と破局していた 原因となった“価値感の違い”
NEWSポストセブン
実力もファンサービスも超一流
【密着グラフ】新大関・安青錦、冬巡業ではファンサービスも超一流「今は自分がやるべきことをしっかり集中してやりたい」史上最速横綱の偉業に向けて勝負の1年
週刊ポスト
今回公開された資料には若い女性と見られる人物がクリントン氏の肩に手を回している写真などが含まれていた
「君は年を取りすぎている」「マッサージの仕事名目で…」当時16歳の性的虐待の被害者女性が訴え “エプスタインファイル”公開で見える人身売買事件のリアル
NEWSポストセブン
タレントでプロレスラーの上原わかな
「この体型ってプロレス的にはプラスなのかな?」ウエスト58センチ、太もも59センチの上原わかながムチムチボディを肯定できるようになった理由【2023年リングデビュー】
NEWSポストセブン
12月30日『レコード大賞』が放送される(インスタグラムより)
《度重なる限界説》レコード大賞、「大みそか→30日」への放送日移動から20年間踏み留まっている本質的な理由 
NEWSポストセブン
「戦後80年 戦争と子どもたち」を鑑賞された秋篠宮ご夫妻と佳子さま、悠仁さま(2025年12月26日、時事通信フォト)
《天皇ご一家との違いも》秋篠宮ご一家のモノトーンコーデ ストライプ柄ネクタイ&シルバー系アクセ、佳子さまは黒バッグで引き締め
NEWSポストセブン
ハリウッド進出を果たした水野美紀(時事通信フォト)
《バッキバキに仕上がった肉体》女優・水野美紀(51)が血生臭く殴り合う「母親ファイター」熱演し悲願のハリウッドデビュー、娘を同伴し現場で見せた“母の顔” 
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《六代目山口組の抗争相手が沈黙を破る》神戸山口組、絆會、池田組が2026年も「強硬姿勢」 警察も警戒再強化へ
NEWSポストセブン