スライダーだけがよくてもダメ。「4つのペア」が必要

 ノムさんは「いいピッチャーの条件」として、コントロールが不可欠だとした。

「フォアボールはベンチやナインが助けられない。いつでもストライクなら投げられる技量が求められる。加えてバッターが嫌がる球種を持っていると、プロでやっていける。

 マー君の球種ではスライダーはよかった。ほれぼれしたね。ヤクルトにいた伊藤智、稲尾(和久)に重なったね。オレの長い野球人生の中で、伊藤智、稲尾、マー君というのは、ひとめぼれしたピッチャー。稲尾と比較するとまだまだだが、マー君を最初に見た時、稲尾以来のスライダーではないかと思った。ただ、スライダーだけがよくてもダメなんだよね。

 ピッチングは4組のペアの組み合わせだと思っている。スライダーだけがよくてもダメで、スライダーの反対のシュートがよくて初めてワンペアになる。速い球と遅い球、これでツーペア。さらにストライクとボールでスリーペア、高目と低目でフォーペア。稲尾のようにこの4つのペアをうまく使えるピッチャーが一流だといえる」

 2013年当時、マー君はまだまだその域ではないとしながら、ノムさんはこう続けた。

「オレがマー君の球を受けていたら、結果を別にして、野球を覚えるだろう。ピッチングそのものを覚える。マー君の場合、1球1球のボールとの会話がない。これはファールで稼いで、これは見逃しさせて、これは空振りで、これは意表を突くといった具合に、1球ごとのボールとの会話が見られない。

 マー君を見ているとプロ意識とか、頭を使うとかいうことがない。淡々とやっている。野球を見て、苦労している、考えているという“この1球”がないから、解説原稿を書くのに困る。物語になっていない。1球ごとにバッター心理が働いているわけだから、それを読んだり、逆手に取ったりするのが野球なんだけどね。もちろんマー君だけではないが、マー君は天才型の野球だよね。長嶋型ではなく、野村型の野球をやって欲しいもんだ」

 ノムさんは田中がメジャーから楽天に復帰する前年に亡くなった。楽天に入団した頃から「メジャーに行きたい」と言っていた田中に対し、「メジャーで通用すると思う。コントロールとバッターの嫌がる球種を1つ持っておれば通用する。あとの上積みは4ペアをいかに勉強するか」としていたのがノムさんだった。

「マー君に“150キロのど真ん中と130キロの外角低め、どっちが打たれる”と質問してやったことがある。そこからピッチング感が変わったと思うが、ど真ん中より外角低めの方が緩くてもヒットになりづらい。それが野球。もちろん打者分析も必要だが、ピッチャーにスピードはいらない、コントロールと配球が野球なんだとね」

 そして、ノムさんは2013年当時の田中にこんな言葉を贈った。

「孫子の兵法のように、“敵を知り、己を知れば、百戦して危うからず”が野球の基本中の基本。敵を知り、己を知らなければ戦術も戦略も生まれない」

 それから10年以上の時が過ぎた。田中の球速もかつてほどではない。そうしたなかで巨人で完全復活を目指すわけだが、ノムさんの教えを田中が思い出すことはあるだろうか。

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