ライフ

作家・山口恵以子さんは『ママはいつもつけまつげ』をどう読んだのか 「メイコさんの天然のお茶目ぶりに何度も吹き出した」

【書評】『ママはいつもつけまつげ 母・中村メイコとドタバタ喜劇』神津はづき/小学館/1870円

『ママはいつもつけまつげ 母・中村メイコとドタバタ喜劇』神津はづき/小学館/1870円

 神津はづきさんが、母・中村メイコさんについて愛情たっぷりに綴った『ママはいつもつけまつげ 母・中村メイコとドタバタ喜劇』が話題だ。『食堂のおばちゃん』シリーズや『婚活食堂』シリーズなどで知られる作家・山口恵以子さんは、この『ママはいつもつけまつげ』をどう読んだのか──。山口さんによる“書評”をお届けします。

 * * *
 神津はづきさんは六十一歳で八十九歳のお母様・中村メイコさんを看取った。私は六十歳で九十一歳の母を看取った経験があるので、担当編集者は「山口さんならはづきさんの体験を身近に感じられるでしょう」と仰り、書評を依頼して下さった。

 しかし、一読して愕然とした。中村メイコさんは私が物心ついた頃からのスターで、神津善行さんは売れっ子の作曲家、カンナさんはエッセイストとして活躍、はづきさんは個性派女優という、「スター千一夜」のようなご家族の話なのだと、改めて気づかされた。

 朝からテレビや映画の仕事をこなし、夜帰宅してはご家族と食事に出かけ、必ずはしご酒で夜中まで飲み歩き、翌日はまた仕事……というメイコさんのエネルギーに、ひたすら圧倒された。

 しかもその超多忙な生活の中で、三人のお子さんを産み、育てている。のみならず、ご自身と夫君のお母さまの面倒も見ておられて、一時はお手伝いさんと介護の方を含め、一家十一人で暮らしていたのだから、もう言葉もない。メイコさん、すごい!

 二歳から死の直前まで現役の女優でいらしたメイコさんには、世間一般の「常識」に欠ける点が多々あった。同時に、常識を凌駕する「楽しい非常識」も多々持ち合わせていらした。

 初対面の時、音合わせでピアノに向かった神津さんが「下(の音)を出して」と言ったら、メイコさんが舌を出したというエピソードには爆笑した。この作品にはそんなメイコさんの天然のお茶目ぶりが満載で、何度も吹き出してしまった。

 しかし、メイコさんには真剣に生きてきた人ならではの金言も少なくない。「お手伝いさんはママができないことを頼むのであって、あなたが頼むのはおかしい」は、誰の胸にも響くはずだ。

 同時に、メイコさんを妻として、互いに支え合い、末永く夫婦生活を全うした神津さんの人間観も素晴らしい。はづきさんと杉本哲太さんの結婚が決まった時、神津さんがはづきさんに仰った「誰と結婚しようと大変の分量は同じだから……内容が違うだけでね」もすごい名言だと思う。

 実は、はづきさんの家は、父方と母方の祖母もきわめて個性的だ。元新劇女優で、人気のビストロの経営者だった母方のお祖母ちゃん。登場場面は少ないが、おかまバーのママと心を通わせた父方のお祖母ちゃん。それぞれをヒロインにドラマが書けそうだ。

 私は三人兄妹で、上は兄二人、女の子は私だけだったので、母との密着度は超高かった。だからはづきさんの、母親と少し距離を置いた微妙な「次女目線」が興味深かった。「好きなんだけど、一日ママと一緒にいるのは勘弁して!」という心境は、メイコさんのエネルギッシュすぎる性格故なのだろうか?

 この作品を読んだら、長女のカンナさんから見た「中村メイコと家族の話」も読みたくなった。

 最後に、亡くなるその日まで毎晩ウイスキーを飲んでいたメイコさんに乾杯! 私も毎晩飲んでますよ~!

【プロフィール】
山口恵以子(やまぐち・えいこ)/1958年生まれ。食と酒をテーマにした『食堂のおばちゃん』『婚活食堂』『ゆうれい居酒屋』シリーズは累計で100万部を突破。読売新聞「人生案内」では人生相談の回答者を務める。『いつでも母と 自宅でママを看取るまで』は本誌連載時から大反響で、今は文庫化されて版を重ねている。

※女性セブン2025年3月13日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

公選法違反の疑いで刑事告訴され、書類送検された斎藤知事(左:時事通信フォト)と折田楓氏(右:本人SNS)
“公選法違反疑惑”「メルチュ」折田楓氏の名前が行政SNS事業から消えていた  広島市の担当者が明かした“入札のウラ側”《過去には5年連続コンペ落札》
NEWSポストセブン
コンサートでは歌唱当時の衣装、振り付けを再現
南野陽子デビュー40周年記念ツアー初日に密着 当時の衣装と振り付けを再現「初めて曲を聞いた当時の思い出を重ねながら見ていただけると嬉しいです」
週刊ポスト
”薬物密輸”の疑いで逮捕された君島かれん容疑者(本人SNSより)
《28歳ギャルダンサーに“ケタミン密輸”疑い》SNSフォロワー10万人超えの君島かれん容疑者が逮捕 吐露していた“過去の過ち”「ガンジャで捕まりたかったな…」
NEWSポストセブン
中居正広氏の近況は(時事通信フォト)
反論を続ける中居正広氏に“体調不良説” 関係者が「確認事項などで連絡してもなかなか反応が得られない」と明かす
週刊ポスト
スーパー「ライフ」製品が回収の騒動に発展(左は「ライフ」ホームページより、みぎはSNSより)
《全店舗で販売中止》「カビだらけで絶句…」スーパー「ライフ」自社ブランドのレトルトご飯「開封動画」が物議、本社が回答「念のため当該商品の販売を中止し、撤去いたしました」
NEWSポストセブン
「地面師たち」からの獄中手記をスクープ入手
「全てを話せば当然、有罪となっていたでしょう」不起訴になった大物地面師が55億円詐欺「積水ハウス事件」の裏側を告白 浮かび上がった“本当の黒幕”の存在
週刊ポスト
大谷と真美子さんを支える「絶対的味方」の存在とは
《大谷翔平が“帰宅報告”投稿》真美子さん「娘のベビーカーを押して夫の試合観戦」…愛娘を抱いて夫婦を見守る「絶対的な味方」の存在
NEWSポストセブン
「お笑い米軍基地」が挑んだ新作コント「シュウダン・ジケツ」(撮影/西野嘉憲)
沖縄のコント集団「お笑い米軍基地」が戦後80年で世に問うた新作コント「シュウダン・ジケツ」にかける思い 主宰・まーちゃんが語る「戦争にツッコミを入れないと」
NEWSポストセブン
令和最強のグラビア女王・えなこ
令和最強のグラビア女王・えなこ 「表紙掲載」と「次の目標」への思いを語る
NEWSポストセブン
“地中海の楽園”マルタで公務員がコカインを使用していたことが発覚した(右の写真はサンプルです)
公務員のコカイン動画が大炎上…ワーホリ解禁の“地中海の楽園”マルタで蔓延する「ドラッグ地獄」の実態「ハードドラッグも規制がゆるい」
NEWSポストセブン
『週刊ポスト』8月4日発売号で撮り下ろしグラビアに挑戦
渡邊渚さん、撮り下ろしグラビアに挑戦「撮られることにも慣れてきたような気がします」、今後は執筆業に注力「この夏は色んなことを体験して、これから書く文章にも活かしたいです」
週刊ポスト
強制送還のためニノイ・アキノ国際空港に移送された渡辺優樹、小島智信両容疑者を乗せて飛行機の下に向かう車両(2023年撮影、時事通信フォト)
【ルフィの一味は実は反目し合っていた】広域強盗事件の裁判で明かされた「本当の関係」 日本の実行役に報酬を支払わなかったとのエピソードも
NEWSポストセブン